一次性進行型多発性硬化症(PPMS)に対するフィンゴリモド(スフィンゴシン-1-リン酸受容体調節薬)の安全性と有効性を検証した第III相試験「INFORMS」の最終結果が報告された。フィンゴリモドによる抗炎症療法は、PPMSの病態進行を抑制しないことが示された。試験報告を行った米国マウント・サイナイ・アイカーン医科大学のFred Lublin氏らは、結果を踏まえて「PPMSの治療は、再発性MSとは異なるアプローチが必要である」とまとめている。フィンゴリモドは、再発性MSおよび二次性進行型MSに有効であることから、PPMSに対しても同様の効果が期待されていた。Lancet誌オンライン版2016年1月27日号掲載の報告。
障害進行の検出精度を高めるため、新たな複合評価項目を設定
INFORMS試験は、18ヵ国148施設で行われた多施設共同二重盲検プラセボ対照並行群間比較試験で、PPMS患者を、フィンゴリモド投与群またはプラセボ投与群に1対1の割合で無作為に割り付け、3~5年間治療した。
フィンゴリモドの用量は、当初1.25mg/日であったが(コホート1)、2009年11月19日にプロトコルが改定され、盲検下のまま0.5mg/日に変更された(コホート2)。患者の主な選択基準は、年齢25~65歳、疾患進行1年以上、脳MRI陽性・脊髄MRI陽性・脳脊髄液陽性のうち2つを満たす、罹病期間2~10年、過去2年間の障害進行の客観的な証拠がある、などであった。
研究グループは、総合障害度評価尺度(EDSS)、歩行時間テスト(25' Timed-Walk Test:25’TWT)スコアあるいは上肢機能の評価(9-Hole Peg Test:HPT)スコアのベースラインからの変化に基づく新たな複合主要評価項目を用い、3年以上治療を受けた被験者について、3ヵ月間持続する障害進行の発現までの期間を評価した。
フィンゴリモド群とプラセボ群で障害進行に差はない
2008年9月3日~11年8月30日に、970例が無作為化された(コホート1:1.25mg投与群147例、プラセボ群133例/コホート2:0.5mg投与群336例、プラセボ群354例)。有効性解析対象は、コホート1および2のプラセボ群487例と0.5mg投与群336例の計823例であった。ベースラインの両群の特性は類似していた(女性48%、平均年齢48.5歳、平均EDSSスコア4.67、ガドリニウム増強病変なし87%)。
試験終了までに、複合主要評価項目の3ヵ月間持続する障害進行が認められたのは、0.5mg投与群で232例、プラセボ群で338例であった。Kaplan-Meier法で算出した障害進行率は、0.5mg投与群77.2%(95%信頼区間[CI]:71.87~82.51)、プラセボ群80.3%(同:73.31~87.25)で、プラセボに対するリスク減少は5.05%(ハザード比[HR]:0.95、95%CI:0.80~1.12、p=0.544)であった。EDSSのみを評価項目とした場合でも同様に、両群間で有意差は認められなかった(リスク減少:11.99%、HR:0.88、95%CI:0.72~1.08、p=0.217)。
安全性については、再発性MS患者を対象としたフィンゴリモドの臨床試験成績とおおむね一致していた。主な有害事象は、リンパ球減少症(0.5mg投与群19例[6%] vs.プラセボ群0例)、徐脈(同5例[1%] vs.1例[<1%])、1度房室ブロック(3例[1%] vs.6例[1%])であった。重篤な有害事象は、0.5mg投与群84例(25%)、プラセボ群117例(24%)に認められ、主なものは黄斑浮腫がそれぞれ6例(2%)と6例(1%)、基底細胞がんが14例(4%)と9例(2%)であった。
著者は、「INFORMS試験は、複合主要評価項目を用いた初めての大規模臨床試験で、結果には整合性が認められたことから、今後、PPMSを対象とした臨床試験の評価項目として有用であることが示唆される」と結論している。
(医学ライター 吉尾 幸恵)