顔面移植術後の長期アウトカムは?/Lancet

提供元:ケアネット

印刷ボタン

公開日:2016/09/05

 

 顔面移植では術前の十分な手術可否の検討と、術後の長期的なサポートプログラムが必要であることを、フランス・パリ第5大学のLaurent Lantieri氏らが単施設において前向きに追跡した結果、報告した。顔面移植は2005年以降に30件以上が実施されているが、これまでに長期追跡の報告論文はなかった。Lancet誌オンライン版2016年8月24日号掲載の報告。

顔面外傷20例のうち移植手術を行った7例を追跡
 研究グループは、顔面移植の長期的なリスク(合併症、免疫抑制薬治療の副作用、急性/慢性拒絶反応)とベネフィット(QOLの改善)を明らかにするため、2000年1月~2009年12月に受診した顔面外傷(腫瘍、熱傷、銃創)の患者20例を前向きに追跡評価した。顔面移植は、第1除外基準(直近のがん既往、精神状態が不安定など)の判定により10例が選択され、その後、第2除外基準によって3例が除外され(強度の抗HLA感作を呈した熱傷2例、予後不良の黒色腫を併発した色素性乾皮症1例)、7例に実施された(神経線維腫症I型2例、熱傷1例、自傷銃創4例)。実施時期は2007年1月21日~2011年4月16日。

 予定されたリビジョン手術、免疫抑制薬のフォローアップ治療を除くすべての入院を有害事象とみなし(安全性エンドポイント)、事前規定の免疫学的・代謝的・手術関連・社会的統合に関するエンドポイントを前向きに収集して評価した。また、SF-36健康調査票を用いて健康関連QOLの定量的評価を行った。

早期死亡1例を除く6例について、平均6年追跡
 7例のうち、2例が術後に死亡した。1例は、顔面移植に伴う緑膿菌感染症により術後65日で死亡、もう1例は術後3.4年時点で自殺によるものであった。

 長期アウトカムの評価には、6例(顔面同種移植後平均6年[範囲:3.4~9年])のデータを包含した。

 6例全員が、機能的移植を受けた。またリビジョン手術は平均3回(範囲:1~6)受けていた。

 安全性エンドポイントとして、術後1ヵ月以内では感染症が、1日目~7年時点までは急性拒絶反応が、または免疫抑制薬治療の副作用が報告された。拒絶反応の再発事例には維持療法として高用量のステロイドの投与が、追跡期間最後までハイレベルに行われた。しかし、ステロイド使用の副作用としての糖尿病を発症した患者はいなかった。

 3例の患者において、高血圧症が認められ治療を必要とした。また全患者において糸球体濾過量の顕著な低下がみられた。

 レシピエントおよび家族とも全員が、移植を受け入れていた。一方で、社会的統合およびQOLの改善は、患者間でばらつきが大きく、またベースライン値および精神科合併障害によっても異なっていた。

 これらを踏まえて著者は、「所見は、顔面移植のリスクベネフィットにおいて、社会的支援と患者の既存の精神状態が重大な影響を及ぼすことを示すものであった」と指摘し、「検討したようなタイプの顔面移植では、厳格な施設内倫理委員会の下、術前の患者選択を慎重に行い、また術後の長期にわたるフォローアップが求められる」とまとめている。