腎摘除術後の再発リスクが高い腎細胞がん患者の術後補助療法において、スニチニブは良好な予後をもたらすことが、フランス・Saint Andre病院のAlain Ravaud氏らが実施したS-TRAC試験で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2016年10月9日号に掲載された。転移性腎細胞がんの予後は過去10年改善されておらず、この間にサイトカイン療法、放射線療法、ホルモン療法などによる術後補助療法が試みられたが、再発率の抑制には成功していない。血管内皮増殖因子(VEGF)阻害薬であるスニチニブは、転移性腎細胞がんに対する有効性が確認されている。
再発予防効果をプラセボ対照無作為化試験で評価
S-TRACは、腎摘除術後の高再発リスク局所領域腎細胞がん患者の再発予防におけるスニチニブの有用性を評価する二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験(Pfizer社の助成による)。
対象は、年齢18歳以上、University of California Los Angeles Integrated Staging System(UISS)の改訂判定基準で局所領域腎細胞がん(Stage 3以上または領域リンパ節転移陽性、あるいはこれらの双方)と診断され、組織学的に淡明細胞型腎細胞がんが証明された患者であった。
被験者は、スニチニブ(50mg/日、経口)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。治療は、4週投与/2週休薬のスケジュールで1年間の投与が終了するまで、あるいは再発、許容できない毒性の発現、患者の希望で中止となるまで行われた。
主要評価項目は盲検化された中央判定による無病生存(DFS)であり、副次評価項目には担当医判定DFS、全生存(OS)、安全性などが含まれた。DFSは、割り付け時から初回再発、転移、2次がん、死亡が発現するまでの期間と定義した。
2007年9月19日~2011年4月7日の間に、21ヵ国99施設に615例が登録され、スニチニブ群に309例、プラセボ群には306例が割り付けられた。
DFS期間中央値が1年以上延長、Grade 3/4の有害事象は高頻度
ベースラインの年齢中央値は、スニチニブ群が57.0歳(範囲:25~83)、プラセボ群は58.0歳(同:21~82)、男性がそれぞれ71.8%、74.8%を占めた。腫瘍部位は両群とも左・右腎が約半数ずつだった。フォローアップ期間中央値は両群とも5.4年。
中央判定によるDFS期間中央値は、スニチニブ群が6.8年と、プラセボ群の5.6年に比べ有意に優れた(ハザード比[HR]:0.76、95%信頼区間[CI]:0.59~0.98、p=0.03)。
担当医判定DFS期間中央値は、スニチニブ群が6.5年、プラセボ群は4.5年であり、両群間に有意な差は認めなかった(HR:0.81、95%CI:0.64~1.02、p=0.08)。OS期間中央値には未到達だった。
スニチニブ群で頻度の高い有害事象として、下痢(56.9%)、手掌・足底発赤知覚不全症候群(50.3%)、高血圧(36.9%)、疲労(36.6%)、悪心(34.3%)などが認められた。
Grade 3(48.4 vs.15.8%)および4(12.1 vs.3.6%)の有害事象の頻度は、スニチニブ群が高かった。重篤な有害事象の発現率は両群でほぼ同等で(21.9 vs.17.1%)、治療関連死は認めなかった。有害事象による減量(34.3 vs.2.0%)、治療中断(46.4 vs.13.2%)および治療中止(28.1 vs.5.6%)は、スニチニブ群のほうが高頻度であった。
EORTC QLQ-C30のほとんどの項目は、スニチニブ群のスコアが低かった(QOLが劣る)が、事前に規定された臨床的に意味のある差(10点)を超えたのは、下痢(12点差、p<0.001)および食欲喪失(10.0点差、p<0.001)のみであった。同様に、EQ-5D、EQ-VASのスコアもスニチニブ群が有意に低かったが、臨床的に意味のある差には達していなかった。
著者は、「術後補助療法としてのスニチニブの長期的な有用性を確定するには、さらなる検討を要するが、5年時のDFS率に8%の差(59.3 vs.51.3%)がみられたことから、術後スニチニブ1年投与の効果は、その後も経時的に維持されていたと考えられる」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)