妊娠期間中の抗レトロウイルス療法(ART)は、ジドブジン単独療法と比較してHIVの母子感染率を有意に低下させたが、母親と新生児の有害転帰リスクの増加も認められた。米国・ジョンズ・ホプキンス大学医学部のMary G. Fowler氏らが、無症候性HIV感染妊婦を対象としたThe Promoting Maternal and Infant Survival Everywhere (PROMISE)試験の結果、報告した。ARTはHIV母子感染の予防に有効であるが、妊娠の転帰に悪影響を及ぼすことが示された研究も散見される。CD4高値のHIV感染妊婦における、ジドブジン+ネビラピン単回投与とARTの、母子感染予防効果と安全性を比較した無作為化試験は十分ではない。NEJM誌オンライン版2016年11月3日号掲載の報告。
約3,400例の無症候性HIV感染妊婦で、母子感染率と母子の安全性を評価
PROMISE試験は、7ヵ国14施設において、CD4高値の無症候性HIV感染妊婦を対象に妊娠期間中のARTの有効性と安全性を検討した無作為化非盲検比較試験である。
研究グループは、妊娠14週超でCD4数350/mm
3以上のHIV感染妊婦3,490例(登録時妊娠期間中央値26週[四分位範囲:21~30]、CD4数中央値530/mm
3)を、ジドブジン+ネビラピン単回投与+出産後テノホビル・エムトリシタビン1~2週間投与群(ジドブジン単独療法群)、ジドブジン+ラミブジン+ロピナビル・リトナビル投与群(ジドブジン併用ART群)、テノホビル+エムトリシタビン+ロピナビル・リトナビル投与群(テノホビル併用ART群)に無作為に割り付けた。
主要評価項目は、生後1週時の新生児HIV感染および母子の安全性とし、intention-to-treat解析を実施した。
ART群で有意に低下するも、低出生体重児や早産が増加
新生児HIV感染率は、ART群(両ART群の併合)でジドブジン単独療法群より有意に低下した(0.5% vs.1.8%、絶対差:-1.3ポイント、反復信頼区間:-2.1~-0.4)。
一方、母親における有害事象(Grade2~4)の発現率は、ジドブジン単独療法群よりジドブジン併用ART群で有意に高かった(17.3% vs. 21.1%、p=0.008)。また、Grade2~4の血液検査異常値の発現率は、ジドブジン単独療法群よりテノホビル併用ART群で高かった(0.8% vs.2.9%、p=0.03)。血液検査値異常の有害事象に関して、両ART群に有意差は認められなかった(p>0.99)。
出生時体重が2,500g未満の新生児の割合は、ジドブジン単独療法群と比較し、ジドブジン併用ART群(12.0% vs.23.0%、p<0.001)ならびにテノホビル併用ART群(8.9% vs.16.9%、p=0.004)で多く、妊娠37週未満の早産の割合もジドブジン単独療法群と比較し、ジドブジン併用ART群で多かった(13.1% vs.20.5%、p<0.001)。テノホビル併用ART群は、ジドブジン併用ART群と比較して妊娠34週未満の超早産率(6.0% vs.2.6%、p=0.04)、ならびに早期新生児死亡率(4.4% vs. 0.6%、p=0.001)が高かったが、ジドブジン単独療法群とは差はなかった(それぞれp=0.10、p=0.43)。
HIV非感染生存率は、ジドブジン併用ART群の新生児が最も高かった。
なお、WHOが推奨するART(テノホビル+エムトリシタビン+エファビレンツ)が本試験のレジメンより有害事象が少ないかどうかの評価はできていないことを、著者は研究の限界として挙げている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)