3件の前向きコホート研究と1件の横断研究の計5万5,685例全体で、遺伝的要因と生活習慣要因は、それぞれ独立して冠動脈疾患(CAD)の感受性と関連していることが示された。高遺伝子リスク群でも、生活習慣が悪い群よりも良い群でCADの相対リスクが約50%低下した。米国・マサチューセッツ総合病院のAmit V. Khera氏らが、CADの遺伝子リスクを定量化し生活習慣との関連を解析し、報告した。遺伝的要因と生活習慣の要因はどちらも、個人のCADリスクに関与するが、高遺伝子リスクが健康的生活習慣によってどのくらい相殺されるかはこれまで不明であった。NEJM誌オンライン版2016年11月13日号掲載の報告。
約5万6,000例の遺伝子リスクを定量化し生活習慣因子との関連を解析
研究グループは、DNA多型の多遺伝子スコアを用い、3件の前向きコホート研究(Atherosclerosis Risk in Communities[ARIC]研究7,814例、Women’s Genome Health Study [WGHS]研究2万1,222例、Malmo Diet and Cancer Study[MDCS]研究2万2,389例)、ならびに遺伝子型と共変量データが利用できる1件の横断研究(BioImage研究4,260例)の計4研究のデータを用いて、CAD遺伝子リスクを定量化する検討を行った。米国心臓協会(AHA)の戦略的目標から、4つの健康的生活習慣因子(現在喫煙なし、肥満なし、定期的な運動、健康的な食生活)で構成される評価法を作成し、健康的生活習慣の遵守を判定した。
生活習慣が良い群で、悪い群より冠動脈イベントリスクが低い
CADイベント発症の相対リスクは、低遺伝子リスク(多遺伝子スコアの第1五分位)群と比較して、高遺伝子リスク(多遺伝子スコアの第5五分位)群で91%高かった(ハザード比[HR]:1.91、95%信頼区間[CI]:1.75~2.09)。
また、生活習慣が良い(健康的生活習慣因子4つのうち3つ以上遵守)群は、遺伝子リスクに関係なく、悪い(健康的生活習慣因子が1つ以下)群と比較して、実質的にCADイベント発症のリスクが低かった。
高遺伝子リスク群において、生活習慣が悪い群と比較して、良い群はCADイベント発症の相対リスクが46%低かった(HR:0.54、95%CI:0.47~0.63)。10年間のCADイベントの標準化発症率は、ARIC研究では生活習慣が悪い群10.7%に対し、良い群5.1%、WGHS研究ではそれぞれ4.6%および2.0%、MDCS研究では8.2%および5.3%と、良い群で低かった。また、BioImage試験では、いずれの遺伝子リスクにおいても良い生活習慣は、冠動脈石灰化の有意な減少と関連していた。
なお著者は、各研究が無作為化試験ではないため、生活習慣要因とCADイベントリスクの関連性を因果関係として捉えることはできないこと、各コホート研究で生活習慣の評価方法がわずかに異なることなどを研究の限界として挙げている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)