幼少時の鉛曝露が38歳時の認知機能や社会経済学的地位の低さと関連していることが示された。社会経済学的地位の低さの原因の約4割は、知能指数(IQ)の低さと関連していたという。米国・デューク大学のAaron Reuben氏らが、1970年代初頭生まれのニュージーランド出生コホートを前向きに追跡した試験を基に検証したもので、JAMA誌2017年3月28日号で発表した。ニュージーランドでは、1970~80年代の車の排ガス規制が低く、都市部の鉛曝露は国際基準よりも一貫して高かった。また、他のコホートと比べて鉛曝露の社会的格差による違いが観察されておらず、鉛曝露がIQや社会経済学的地位に与える影響について、より信頼性が高い結果が得られた試験だという。
11歳で血中鉛値を測定、38歳で成人IQと社会経済的地位を評価
研究グループは、ニュージーランドで行われた1972〜73年の出生から38歳までを追跡した前向きコホート試験「Dunedin Multidisciplinary Health and Development Study」を基に、幼少期の鉛曝露と成人期の認知機能、社会経済学的地位などについて、その関連を検証した。
具体的には、11歳時点における血中鉛値により鉛曝露の程度を判定した。主要評価項目は、38歳時点の「ウェクスラー成人知能検査-IV」(WAIS-IV)によるIQで、副次的評価項目は言語理解、知覚推理、作業記憶、処理速度の指標だった。また、社会経済学的地位について、38歳時点で「ニュージーランド社会経済学的地位指標-2006」(NZSEI-06)に基づいて評価した。
幼少時血中鉛値の5μg/dL増加ごとに、成人時のIQスコアは1.61低下
同コホート試験の当初の被験者数は1,037例で、そのうち38歳で生存が確認できたのは1,007例だった。また、11歳で鉛曝露の検査を受けたのは565例で、血中鉛値の平均値(SD)は10.99(4.63)μg/dLだった。
鉛曝露検査を受けた被験者の38歳時点のWAIS-IVスコア平均値は101.16(14.82)、NZSEI-06スコア平均値は49.75(17.12)だった。
母親のIQ、幼少時IQ、幼少時の社会経済学的地位を補正後、幼少時の血中鉛値の5μg/dL増加ごとに、成人時のIQスコアは1.61ポイント低下、知覚推理指標は2.07ポイント低下、作業記憶指標は1.26ポイント低下がそれぞれ認められた。一方、言語理解や処理速度指標については、有意な関連はみられなかった。
交絡因子で補正後、幼少時の血中鉛値5μg/dL増加ごとに、成人時の社会経済学的地位1.79ポイント低下との関連がみられた。
幼少時の血中鉛値と幼少~成人時のIQ・社会経済学的地位の低下について、その関連の40%は幼少時からのIQ低下が原因であると示唆された。
(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)