大腸および小腸の手術では、麻酔導入時にデキサメタゾン8mgの静脈内投与を追加すると、標準治療単独に比べ術後24間以内の悪心・嘔吐が抑制され、72時間までの制吐薬レスキュー投与の必要性が低減することが、英国・オックスフォード大学のReena Ravikumar氏らが実施したDREAMS試験で示された。デキサメタゾン追加による有害事象の増加は認めなかったという。研究の成果は、BMJ誌2017年4月18日号に掲載された。術後の悪心・嘔吐(PONV)は、最も頻度の高い術後合併症で、患者の30%以上にみられる。腸管の手術を受けた患者では、PONVは回復を遅らせることが多く、術後の栄養障害を引き起こす可能性もあるため、とくに重要とされる。デキサメタゾンは、低~中リスクの手術を受ける患者でPONVの予防に有効であることが示されているが、腸管手術を受ける患者での効果は知られていなかった。
デキサメタゾンの術後制吐効果を1,350例で検討
本研究は、英国の45施設が参加したプラグマティックな二重盲検無作為化対照比較であり、2011年7月~2014年1月に1,350例が登録された(英国国立健康研究所・患者ベネフィット研究[NIHR RfPB]などの助成による)。
対象は、年齢≧18歳、病理学的に悪性または良性の病変に対し、開腹または腹腔鏡による待機的腸管手術を施行される患者であった。
すべての患者が全身麻酔を受け、麻酔科医が決定した標準治療として術前に制吐薬(デキサメタゾンを除く)が投与された。デキサメタゾン群は術前にデキサメタゾン8mgの静脈内投与を受け、対照群には標準治療以外の治療は行われなかった。
主要評価項目は、24時間以内に患者または医師によって報告された嘔吐とした。副次評価項目は、術後24時間以内、25~72時間、73~120時間の嘔吐および制吐薬の使用、有害事象などであった。
デキサメタゾン群が標準治療群に比べ有意に低かった
デキサメタゾン追加群に674例、標準治療単独群には676例が割り付けられた。全体の平均年齢は63.5(SD 13.4)歳、女性が42.0%であった。腹腔鏡手術は63.4%で行われた。直腸切除術が42.4%、右結腸切除術が22.4%、左/S状結腸切除術が16.4%であった。
24時間以内の嘔吐の発現率は、デキサメタゾン群が25.5%(172例)と、標準治療群の33.0%(223例)に比べ有意に低かった(リスク比[RR]:0.77、95%信頼区間[CI]:0.65~0.92、p=0.003)。1例で24時間以内の嘔吐を回避するのに要する術前デキサメタゾン投与による治療必要数(NNT)は13例(95%CI:5~22)だった。
24時間以内に制吐薬の必要時(on demand)投与を受けた患者は、デキサメタゾン群が39.3%(265例)であり、標準治療群の51.9%(351例)よりも有意に少なかった(RR:0.76、95%CI:0.67~0.85、p<0.001)。また、術前デキサメタゾン投与のNNTは8例(95%CI:5~11)だった。
デキサメタゾン群は制吐薬の必要時投与が少なかった
25~72時間の嘔吐の発現に有意な差はなかった(33.7 vs.37.6%、p=0.14)が、制吐薬の必要時投与はデキサメタゾン群が有意に少なかった(52.4 vs.62.9%、p<0.001)。73~120時間については、嘔吐、制吐薬の必要時投与はいずれも両群間に有意差を認めなかった。
死亡率は、デキサメタゾン群1.9%(13例)、標準治療群は2.5%(17例)と有意な差はなく、両群8例ずつが術後30日以内に死亡した。有害事象の発現にも有意差はなかった。30日以内の感染症エピソードが、それぞれ10.2%(69例)、9.9%(67例)に認められた。
著者は、「PONVの現行ガイドラインは、おそらく過度に複雑であるため広範には用いられていない。今回の結果は、腸管手術を受ける患者におけるPONVの抑制に簡便な解決策をもたらす」としている。
(医学ライター 菅野 守)