人工心肺装置を用いないoff-pump冠動脈バイパス術(CABG)は、これを用いるon-pump CABGに比べ、術後5年の生存率と無イベント生存率が劣ることが、米国・ノースポート退役軍人局(VA)医療センターのA Laurie Shroyer氏らが行ったROOBY-FS試験で示された。研究の成果はNEJM誌2017年8月17日号に掲載された。2009年に発表された本試験の追跡期間1年時の結果では、1)短期の主要エンドポイント(CAGB施行後30日時の死亡および主な合併症[再手術、新規の機械的循環補助、心停止、昏睡、脳卒中、透析を要する腎不全]の複合)に有意な差はなく(off-pump群7.0% vs.on-pump群5.6%、p=0.19)、2)長期の主要エンドポイント(CAGB施行後1年時の全死亡、30日~1年の非致死性心筋梗塞、30日~1年の血行再建術再施行の複合)はoff-pump群で不良であった(9.9 vs.7.4%、p=0.04)。
ROOBY-FS試験の術後5年時の臨床成績
研究グループは、off-pump CABGとon-pump CABGを比較するROOBY-FS試験の術後5年時の臨床成績を報告した(退役軍人省研究開発共同研究プログラムなどの助成による)。
2002年2月~2007年6月に、米国内18ヵ所のVA医療センターで2,203例が登録され、off-pump群に1,104例、on-pump群には1,099例が無作為に割り付けられた。術後1年の評価は2008年5月までに完了した。
術後5年時の主要評価項目は、全死因死亡および主要有害心血管イベント(MACE)の複合転帰の2つであった。MACEは、全死因死亡、血行再建術再施行(CABGまたは経皮的冠動脈インターベンション[PCI])、非致死的心筋梗塞と定義した。
術後5年時の副次評価項目は、心臓が原因の死亡、血行再建術再施行、非致死的心筋梗塞などであった。主要評価項目はp<0.05、副次評価項目はp<0.01の場合に有意差ありと判定した。
off-pump群で優れる評価項目なし
ベースラインの全体の平均年齢は62.7歳、男性が99.4%を占めた。2枝病変または3枝病変が94.1%、高血圧が86.2%、左室駆出率≧45%が82.3%の患者に認められた。
追跡期間5年の時点で299例(13.6%)が死亡し、心臓関連死が128例(5.8%)含まれた。非致死的心筋梗塞は239例(10.8%)で認められ、血行再建術再施行は276例(12.5%)(CABG再施行:21例、CABG後のPCI施行:258例)に行われた。
5年死亡率は、off-pump群が15.2%と、on-pump群の11.9%に比べ有意に高かった(相対リスク:1.28、95%信頼区間[CI]:1.03~1.58、p=0.02)。また、MACEの5年発生率は、off-pump群が31.0%であり、on-pump群の27.1%に比し有意に不良であった(相対リスク:1.14、95%CI:1.00~1.30、p=0.046)。
術後5年時の副次評価項目には有意な差を認めず、非致死的心筋梗塞の発生率はoff-pump群が12.1%、on-pump群は9.6%(p=0.05)、心臓が原因の死亡はそれぞれ6.3%、5.3%(p=0.29)、血行再建術再施行は13.1%、11.9%(p=0.39)、CABG再施行は1.4%、0.5%だった(p=0.02)。
著者は、「off-pumpのような技術的に高度で革新的な手術アプローチが、優れた臨床アウトカムをもたらすとは限らないことが明らかとなった」とし、「さらに追跡を行って、術後10年のアウトカムを厳格に評価する必要がある。今後は、長期的な無イベント生存率の改善を目標に、血行再建術の長期アウトカムに影響を及ぼす患者側および心臓手術手技のリスク因子を同定する必要がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)