エボラウイルス病(EVD)の男性生存者では、エボラウイルスRNAが精液中に長期に残存し、時間が経過するに従って徐々に減少することが、シエラレオネ保健衛生省のGibrilla F. Deen氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、NEJM誌2017年10月12日号に最終報告として掲載された。西アフリカのエボラ流行を根本的にコントロールするには、EVD生存者におけるエボラウイルス排出の期間を理解し、さらなる感染を予防することが不可欠とされる。すでに本研究の準備報告に基づき、世界保健機関(WHO)と米国疾病管理予防センター(CDC)、中国CDCが、被災3国(シエラレオネ、ギニア、リベリア)の保健省との協働で精液検査プログラムと予防的行動カウンセリングを確立し、実行に移している。
220例を登録、RT-PCR法で解析
本研究は、シエラレオネのEVDの成人男性生存者220例を便宜的標本とし、エボラ治療施設(ETU)を退院後の精液中のエボラウイルスRNAの存在を評価する観察的コホート試験である(WHOなどの助成による)。
患者登録は、ETUを退院後の種々の時点で、2期に分けて行った。第1期(2015年5月27日~7月7日)は首都フリータウン市の都市部で100例、第2期(2015年11月11日~2016年5月12日)はフリータウン市の都市部(60例)と準都市部のルンギ地区(60例)で120例を登録した。
第1期はエボラウイルスのNPとVP40遺伝子、第2期はNPとGP遺伝子を標的配列とし、定量的逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)法を用いてベースライン時に採取した精液検体を検査した。第1期の検査はCDCが、第2期は中国CDCが行い、データ解析と管理はWHO、CDC、中国CDCが行った。
第2期は精液以外の体液の検査も行ったが、今回は精液のみの結果が報告された。また、この研究ではEVDの性行為感染リスクの直接的な評価は行われなかった。
初回陽性率は27%、3ヵ月時の検出率100%から19ヵ月以降は0%に
ベースラインの全体の平均年齢は31.5±9.5歳、ETU退院から検体採取までの平均期間は10.0±4.9ヵ月であった。フリータウン市都市部の参加者に比べ、ルンギ地区の参加者はわずかに年齢が高く、正規の教育をまったく受けていない者や、婚約、結婚している者の割合が高かった。また、世帯人数や世帯内のエボラウイルス感染者数も多かった。HIV検査に同意した195例のうち1例が陽性だった。
初回精液検体を提供した210例のうち、57例(27%)が定量的RT-PCRでエボラウイルスRNAが陽性であった。ETU退院後の期間別のエボラウイルスRNAの検出率は、退院後3ヵ月以内に検体が採取された7例では100%、4~6ヵ月後に採取された42例は62%(26例)、7~9ヵ月後の60例は25%(15例)、10~12ヵ月後の26例は15%(4例)、13~15ヵ月の38例は11%(4例)、16~18ヵ月後の25例は4%(1例)であり、19ヵ月以降に採取された12例では検出されなかった。
第1期にエボラウイルスRNA陽性であった46例では、標的となったNPとVP40のベースラインのサイクル閾値(cycle-threshold value、数値が高いほどRNA量が少ない)の中央値が、ETU退院後3ヵ月以内の検体採取例(7例)ではNPが32.4、VP40が31.3であり、4~6ヵ月の採取例(25例、それぞれ34.3、33.1)、7~9ヵ月(13例、37.4、36.6)、10~12ヵ月(1例、37.7、36.9)と比べて低かった。
第2期に、標的となったNPとGPが陽性であったのは11例であり(ETU退院後4.1~15.7ヵ月に検体採取)、サイクル閾値はNPが32.7~38.0、GPが31.1~37.7であった。
著者は、「生存者に付与されたさらなるスティグマの悪影響を軽減するには、地域社会の、内なる強力で持続的な支援が伴う、相応の敬意や継続的な努力がきわめて重要である」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)