僧帽弁置換術においては、70歳未満の患者は機械弁使用群が生体弁使用群に比べ死亡率が低く、一方、大動脈弁置換術では、55歳までは機械弁の有益性が確認できることが、米国・スタンフォード大学のAndrew B. Goldstone氏らによる約2万5,000例対象の後ろ向きコホート研究の結果、示された。大動脈弁/僧帽弁置換術には、機械弁または生体弁のいずれかが使用される。生体弁使用を支持するエビデンスは限られているにもかかわらず、生体弁の使用が増加していた。NEJM誌2017年11月9日号掲載の報告。
機械弁と生体弁を大動脈弁置換術約9,900例、僧帽弁置換術約1万5,000例で比較
研究グループは、1996年1月1日~2013年12月31日に、カリフォルニア州の非連邦病院142施設において、機械弁または生体弁を用いた初回大動脈弁/僧帽弁置換術を受けた患者のデータを、逆確率重み付け推定法を用いて解析した。
主要エンドポイントは長期死亡率、副次エンドポイントは脳卒中、出血または再手術の累積発生率などで、年齢により患者を層別化し評価した(大動脈弁置換術:45~54歳および55~64歳、僧帽弁置換術:40~49歳、50~69歳、70~79歳)。解析対象は、大動脈弁置換術を受けた患者が9,942例、僧帽弁置換術が1万5,503例であった。
機械弁と生体弁の長期死亡率への影響は大動脈弁置換と僧帽弁置換で異なる
生体弁の使用は、大動脈弁置換術で1996年の11.5%から2013年には51.6%に、僧帽弁置換術では16.8%から53.7%に、どちらも有意に増加していた(いずれもp<0.001)。
大動脈弁置換術の場合、45~54歳の患者では生体弁使用者が機械弁使用者に比べ15年死亡率が有意に高かったが(30.6% vs.26.4%、ハザード比[HR]:1.23、95%信頼区間[CI]:1.02~1.48、p=0.03)、55~64歳の患者では有意な差は確認されなかった(36.1% vs.32.1%、HR:1.04、95%CI:0.91~1.18、p=0.60)。
一方、僧帽弁置換術の場合、15年死亡率は、40~49歳(44.1% vs.27.1%、HR:1.88、95%CI:1.35~2.63、p<0.001)、50~69歳(50.0% vs.45.3%、HR:1.16、95%CI:1.04~1.30、p=0.01)の両年齢層の患者で、生体弁使用者が機械弁使用者よりも有意に高率であった。70~79歳では有意差はなかった(78.3% vs.77.3%、HR:1.00、95%CI:0.93~1.08、p=0.97)。
再手術率は、生体弁使用者が機械弁使用者よりも有意に高率であった。機械弁使用者では生体弁使用者と比較し、累積出血発生率が50~69歳および70~79歳で、累積脳卒中発生率が50~69歳で有意に上昇した。
(医学ライター 吉尾 幸恵)