急性冠症候群(ACS)疑い患者で高感度心筋トロポニンI値が5ng/L未満の場合は、30日以内の心筋梗塞や心臓死のリスクが低いことが示された。英国・エディンバラ大学のAndrew R. Chapman氏らが、ACS疑い患者におけるリスク層別化ツールとして、受診時の心筋トロポニンIの閾値5ng/Lの性能を評価したシステマティックレビューとメタ解析の結果を報告した。高感度心筋トロポニンI検査はACS疑い患者の評価に広く使用されており、5ng/L未満は低リスクとみなされているが、至適閾値であるかは明らかになっていない。JAMA誌2017年11月11日号掲載の報告。
約2万2,500例のACS疑い患者についてメタ解析
研究グループは、2006年1月1日~2017年3月18日の期間で、MEDLINE、EMBASE、Cochrane、Web of Scienceのデータベースを用い、心筋梗塞の一般的な定義によって診断されたACS疑い患者において、高感度心筋トロポニンI値を測定した前向き研究を検索した。
1万1,845報が特定され、このうち104報について全文を調査し、9ヵ国からの19件のコホートがシステマティックレビューに組み込まれた。個々の患者のデータは、17件については筆頭著者から入手して他の2件のデータと統合し、計2万2,457例(平均年齢62[SD 15.5]歳、女性9,329例[41.5%])がメタ解析に組み込まれた。
主要アウトカムは、30日時点の心筋梗塞/心臓死であった。リスク層別化は、個々の患者データを用い、サブグループおよびトロポニン値の範囲で実施された。
心筋トロポニンI値5ng/L未満は、30日時点の心筋梗塞/心臓死の陰性適中率99.5%
計2万2,457例のうち、主要アウトカムである30日時点の心筋梗塞/心臓死は2,786例(12.4%)に発生した。受診時の心筋トロポニンI値が5ng/L未満であった患者は1万1,012例(49%)、このうち60例で登録時イベントまたは30日イベントを見逃していた(59例が登録時の心筋梗塞、1例が30日時点の心筋梗塞、心臓死の見逃しはなし)。
主要アウトカムの陰性適中率は99.5%(95%信頼区間[CI]:99.3~99.6)であった。心臓死の陰性適中率は99.9%(95%CI:99.7~99.9)で、30日心臓死の発生はなく、1年心臓死は7例(0.1%)であった。
著者は、すべてのコホートが同じプロトコールを使用しているわけではないこと、発症後すぐに受診した患者の割合が10%と低いことなどを研究の課題として挙げたうえで、「今回のリスク層別化法の臨床的有用性や費用対効果を理解するために、さらなる研究が必要である」と述べている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)