破裂性腹部大動脈瘤が疑われる患者の治療戦略について、血管内治療と開腹手術では、どちらが臨床的効果および費用対効果に優れるのか。無作為化試験「IMPROVE試験」にて検討された同評価の3年時点の結果を、英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのJanet T. Powell氏ら同研究グループが発表した。結果は、血管内治療が開腹手術よりも生存期間を延長し、質調整生存年(QALY)の獲得が大きく、再手術率は同程度であり、コストは低く、費用対効果に優れることが示された。研究グループは、「今回の結果は、緊急血管内修復がより広く行われるよう、血管内治療の実施を増やすことを支持するものであった」とまとめている。BMJ誌2017年11月14日号掲載の報告。
IMPROVE試験の3年時アウトカムを評価
IMPROVE試験は、2009~16年に、30ヵ所(英国29、カナダ1)の血管センターで、破裂性腹部大動脈瘤が疑われる患者に対する血管内治療(大動脈の形態が安定している場合。そうでなければ開腹とする)の臨床的アウトカムおよび費用対効果を、開腹手術との比較で評価することを目的に実施された。30日時点(
BMJ. 2014 Jan 13;348:f7661.)、1年時点(
Eur Heart J. 2015 Aug 14;36:2061-2069.)のアウトカムについては、既報されている。今回発表の3年時点のアウトカム評価は、2013年8月にプロトコールが修正され追加されていた。
試験は、上級病院臨床医が破裂性大動脈瘤と診断した50歳超の患者を任意抽出して行われた。被験者は無作為に、血管内治療(即時CTを受け形態的に安定していれば緊急ステントグラフト挿入術[EVAR]を施行)、緊急開腹手術のいずれかを受ける群に割り付けられた。無作為化は通常、CT検査および麻酔科評価の前に緊急救命室で行われた。そのため、開腹手術はEVAR不適の患者の特異的治療であった。開腹手術群ではCT検査は義務付けられていなかったが、割り付け患者の90%で行われた。
主要アウトカムは総死亡率、副次アウトカムは3年時点の動脈瘤修復後の再手術、QOL、病院経費などであった。
術後3ヵ月~3年の間に、血管内治療群に生存アドバンテージ
破裂性大動脈瘤と診断された試験適格患者は613例(男性480例)で、316例が血管内治療群(破裂性大動脈瘤と確認したのは275例)に、297例が開腹手術群(同261例)に無作為に割り付けられた。613例のうち502例が緊急修復手術を受けた。
死亡に関する最長フォローアップは7.1年。3年のフォローアップができなかった被験者は各群2例であった。
死亡率は、90日時点では両群で同等であったが(ハザード比[HR]:0.98、95%信頼区間[CI]:0.76~1.26、p=0.88)、中間期(3ヵ月~3年)において血管内治療群の死亡が開腹手術群よりも有意に少なく(HR:0.57、95%CI:0.36~0.90、p=0.015)、3年時点では血管内治療群の死亡率が有意に低かった(48% vs.56%)。ただし、7年時点では、死亡率は両群とも約60%(179/316例 vs.183/297例)となっている(HR:0.92、95%CI:0.75~1.13、p=0.41)。
緊急修復手術を受けた502例では、3年死亡率は血管内治療群が低かったが(42% vs.54%、オッズ比[OR]:0.62、95%CI:0.43~0.88)、7年時点では両群の差は明確ではなくなっていた(HR:0.86、95%CI:0.68~1.08)。3年時点の再手術率は、両群間で有意差はみられなかった(HR:1.02、95%CI:0.79~1.32、p=0.88)。また両群で、初回再手術は早期に多発し、中間期の発生は散発的であったことが認められた。
平均QOLは、初年度は血管内治療群が高かったが、3年時点では同程度であった。しかし早期にQOLが高かったことと、3年時点の死亡率の低さが組み合わさって、血管内治療群の3年時点の平均QALY獲得は0.17(95%CI:0.00~0.33)となった。
血管内治療群は、入院期間も短く、平均病院経費も開腹手術群より少なかった(−2,605ポンド[95%CI:−5,966~702][約2,813ユーロ、3,439ドル])。また、QALY獲得の支払い意思額レベルで検討した結果、すべてのレベルで、血管内治療の費用対効果が優れる確率は90%を超えていた。
(ケアネット)