ウォーキングでもたらされる有益な心肺機能効果は、大気汚染度の高い商業街路を短時間でも通過すると阻害されることが、英国国立心臓・肺研究所のRudy Sinharay氏らによる無作為化クロスオーバー試験によって明らかにされた。検討は、通常速度のウォーキングにおいて大気汚染が健康に与える有害作用を示した初の試験だという。同結果は慢性閉塞性肺疾患(COPD)や虚血性心疾患の患者、健康な人を問わず認められ、虚血性心疾患患者については、薬物の使用で高い大気汚染の有害作用を減じる可能性が示されたが、著者は、「このような健康への悪影響を考慮して、商業街路の大気汚染度の規制を目指す政策が必要だ」とまとめている。Lancet誌オンライン版2017年12月5日号掲載の報告。
ロンドンのオックスフォード・ストリート vs.ハイドパークで各2時間ウォーキング
先行研究で、汚染大気への長期曝露は、とくに高齢のCOPD患者において、肺機能の低下を増大する可能性が示されている。また、短期でも汚染度の高い大気への曝露は、虚血性心疾患やCOPDによる死亡を過剰に引き起こすことが示されており、研究グループは、高齢者を対象に、大気汚染度の高い商業街路と汚染度の低い車などが通らないエリアを比較した、ウォーキングの呼吸器や心血管系への影響を評価する検討を行った。
具体的に、2012年10月~2014年6月に、60歳以上の、血管造影で確認された安定虚血性心疾患を有する患者、またはGOLD(Global initiative for Obstructive Lung Disease)基準でステージ2の臨床的に6ヵ月間の安定を認める患者と、年齢を適合した健康なボランティアを対象に、無作為化クロスオーバー試験を行った。全被験者が、禁煙期間は12ヵ月以上で、服薬治療は各医師の指示の下で継続された。
被験者を無作為に2群に分け、一方はロンドン中心部の商業街路(オックスフォード・ストリート)を、もう一方は都市公園内(ハイドパーク)を、2時間ずつウォーキングした。その際に、黒色炭素、微小粒子状物質(PM)、超微粒子、二酸化窒素(NO
2)の各濃度をセッションごとに測定した。
COPD患者では、咳症状が2倍、喘鳴は4倍に
被験者は、COPD患者40例、虚血性心疾患患者は39例、健康ボランティア40例だった。黒色炭素、NO
2、PM
10、PM
2.5、超微粒子濃度は、いずれもオックスフォード・ストリートがハイドパークに比べて高値だった。
COPD患者において、オックスフォード・ストリートのウォーキング後では、ハイドパークのウォーキング後に比べ、咳(オッズ比[OR]:1.95、p<0.1)、喀痰(同:3.15、p<0.05)、息切れ(同:1.86、p<0.1)、呼気性喘鳴(同:4.00、p<0.05)の報告が有意に増加した。
疾患の有無にかかわらず被験者全員が、ハイドパークのウォーキングにより1秒量(FEV
1)や努力肺活量(FVC)の肺機能が改善し、脈波伝播速度(PWV)や増大係数(AI)の減少が、最大26時間後まで継続した。
一方でオックスフォード・ストリートのウォーキングでは、COPD患者で、FEV
1やFVCの減少、5Hzにおける呼吸抵抗(R5)や20Hzにおける呼吸抵抗(R20)の増加について、ウォーキング中のNO
2、超微粒子、PM
2.5の濃度上昇との関連が認められた。また、PWVやAIの増加も、NO
2や超微粒子の濃度上昇と関連していた。
健康ボランティアにおいても、PWVやAIについて、黒色炭素、超微粒子濃度との関連が認められた。
(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)