高齢者において、社会経済的地位と身体機能には独立した関連性が認められ、その強さおよび整合性は、非感染性疾患(糖尿病、アルコール多飲、高血圧、肥満、身体不活動、喫煙)のリスク因子と類似していることが明らかにされた。スイス・ローザンヌ大学病院のSilvia Stringhini氏らが、24ヵ国で行われたコホート試験を解析し明らかにした。これまでに、社会経済的地位が不良なことや非感染性疾患のリスク因子による、損失生存年数(years of life lost:YLL)については明らかにされているが、身体機能へどれほど影響するかについては明らかにされていなかった。BMJ誌2018年3月23日号掲載の報告。結果を踏まえて著者は、「これらすべてのリスク因子に取り組むことが、身体機能良好で余生を過ごせる時間を大幅に増やすことにつながることが示唆された」と述べている。
身体機能について歩行速度の指標を用いて評価
研究グループは、ヨーロッパ、米国、ラテンアメリカ、アフリカ、アジアの世界保健機関(WHO)加盟国のうち24ヵ国で、1990~2017年に行われた37件のコホート試験について解析を行った。被験者は45~90歳の男女計10万9,107例だった。
身体機能の評価には、歩行速度検査の運動耐容能の指標(index of overall functional capacity)を用いた。社会経済的地位や非感染性疾患リスク因子に曝露された被験者と非曝露の被験者の、歩行速度の差を定量化し、損失身体機能年数を求めて評価した。
社会経済的地位が低い60歳男性の身体機能、6.6年後退
混合モデルによる解析の結果、社会経済的地位が低い60歳男性の歩行速度は、社会経済的地位が高い66.6歳男性の歩行速度と同じだった(損失身体機能年数:6.6年、95%信頼区間[CI]:5.0~9.4)。同様に女性についてみると、社会経済的地位が低いことによる損失身体機能年数は4.6年(3.6~6.2)だった。
社会経済的地位が低いことによる損失身体機能年数差は、高所得国で低中所得国より大きく、高所得国では男性が8.0(5.7~13.1)年、女性が5.4(4.0~8.0)年に対し、低中所得国ではそれぞれ2.6(0.2~6.8)年、2.7(1.0~5.5)年だった。高所得国の中でも、米国はヨーロッパ諸国に比べて格差が大きかった。
その他のリスク因子についてみると、身体活動が不十分な人の60歳までの損失身体機能年数は、男性が5.7(4.4~8.1)年、女性が5.4(4.3~7.3)年。肥満による損失身体機能年数は、それぞれ5.1(3.9~7.0)年と7.5(6.1~9.5)年、高血圧症は2.3(1.6~3.4)年と3.0(2.3~4.0)年、糖尿病は5.6(4.2~8.0)年と6.3(4.9~8.4)年、喫煙は3.0(2.2~4.3)年と0.7(0.1~1.5)年だった。
(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)