米国の51歳以上の成人では、2年以上に及ぶ財産の4分3以上を失う経験により、全死因死亡のリスクが増大することが、ノースウェスタン大学のLindsay R. Pool氏らの調査で示された。研究の成果は、JAMA誌2018年4月3日号に掲載された。突然の財産喪失によるショック(negative wealth shock)は、精神的健康に重大な損失をもたらし、健康関連費の財源を減少させる。高齢で失った財産を取り戻すために残された時間は限られており、財産喪失ショックによる健康上の影響は長期に持続するという。
8,714例を20年追跡した前向きコホート研究
本研究は、財産喪失ショックが全死因死亡と関連するかを、20年のフォローアップ期間において検証する米国の全国的な前向きコホート研究である(米国国立老化研究所の助成による)。
解析には、Health and Retirement Studyのデータを用いた。1994年の登録時に51~61歳の成人8,714例を、2014年まで2年ごとにフォローアップした。財産喪失ショックの経験は、2年以上に及ぶ純資産の75%以上を失った状態と定義した。また、資産面での貧困(asset poverty)は、純資産が0または0を下回る場合とした。
死亡データは、国民死亡記録(National Death Index)および死後の家族との面接により収集した。周辺構造モデルを用いて、フォローアップ期間中の財産喪失ショックに先立って生じる、健康上または他の変数の時間依存性の変化に起因する潜在的な交絡因子を調整した。
全死因死亡リスクが1.5倍に
8,714例のベースライン時の平均年齢は55歳(SD 3.2)で、53%が女性であった。749例が、ベースライン時に資産面で貧困の状態にあった。これ以外の集団のうち、フォローアップ期間中に2,430例が財産喪失ショックを経験し、5,535例はショックを経験せずに財産を継続的に保持していた。
ベースライン時において、財産喪失ショック経験者は継続的財産保持者に比べ、女性が多く、非ヒスパニック系白人以外の人種/民族が多く、世帯所得や純資産が少なく、健康状態が不良であった。資産面での貧困者では、この差がさらに大きく、非婚、無職、重篤な病態の割合が高かった。
8万683人年のフォローアップ期間中に2,823例が死亡した(財産喪失ショック経験者:819例、継続的財産保持者:1,617例、ベースライン時の資産面での貧困者:387例)。
1,000人年当たりの死亡率は、財産喪失ショック経験者が64.9、継続的財産保持者が30.6であり、ベースライン時の資産面での貧困者は73.4であった。継続的財産保持者と比較した死亡の補正ハザード比は、財産喪失ショック経験者は1.50(95%信頼区間[CI]:1.36~1.67)、ベースライン時の資産面での貧困者は1.67(1.44~1.94)と、いずれも有意に高かった。
著者は、「この関連が起こりうるメカニズムをよりよく理解し、標的への介入が潜在的な意義を有するか否かを究明するために、さらなる検討を要する」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)