生殖補助医療を受けた女性の生殖器系がんのリスクは知られていない。英国・ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンのCarrie L. Williams氏らは、大規模な地域住民ベースのコホート研究において、生殖補助医療を受けた女性では子宮体がんや浸潤性乳がんのリスク増加はみられないものの、非浸潤性乳がんや浸潤性または境界悪性卵巣腫瘍のリスク増加が示されたとし、BMJ誌2018年7月11日号で報告した。若年時または複数回の治療サイクルを受けた女性は、乳がんリスク上昇の可能性があるとする研究がいくつかある。また、初期の研究では、卵巣がんのリスク増加が示唆されているが、近年の研究では、境界悪性卵巣腫瘍の増加に関して、一貫性はないものの比較的安心感のある結果が報告されているという。
不妊とがん登録のデータを関連付け
研究グループは、生殖補助医療(生殖を目的とし、体外での卵母細胞および精子、胚の双方の操作を含む治療および手技と定義)を受けた女性における卵巣、乳房、子宮体部のがんのリスクを評価する大規模な地域住民ベースのコホート研究を行った(Cancer Research UKなどの助成による)。
英国のヒト受精・胚研究認可局(Human Fertilisation and Embryology Authority:HFEA)によって記録された、イングランド、スコットランド、ウェールズで1991~2010年の期間に生殖補助医療を受けた全女性を解析の対象とした。コホートの個々の女性の不妊に関するHFEA記録を、全国的ながん登録のデータと関連付けた。
コホートの個々の女性で観察された卵巣、乳房、子宮体部のがんの初回診断を、年齢別、不妊原因の性別、治療時期別の期待値と比較した。全国的な罹患率の実測値と期待値を用いて、標準化罹患比(SIR)を算出した。
卵巣腫瘍リスクは、患者の背景因子に起因する可能性も
25万5,786例の女性が、225万7,789人年のフォローアップを受けた。平均フォローアップ期間は8.8年で、41%が10年以上のフォローアップを受けた。初回治療時の平均年齢は34.5歳、不妊の原因が、1つ以上の女性側の因子である女性は44%、平均不妊期間は4.9年だった。
子宮体がんの実測値は164件、期待値は146.9件で、SIRは1.12(95%信頼区間[CI]:0.95~1.30)であり、リスクの増加は有意ではなかった。
乳がんでは、全体(実測値2,578件 vs.期待値2,641.2件、SIR:0.98、95%CI:0.94~1.01)および浸潤性乳がん(2,272 vs.2,371.4件、0.96、0.92~1.00)のリスクには有意差を認めなかったが、非浸潤性乳がん(291 vs.253.5件、1.15、1.02~1.29、絶対過剰リスク[AER]:1.7件/10万人年、95%CI:0.2~3.2)のリスクは生殖補助医療を受けた女性で有意に高く、治療サイクル数が増加するに従ってリスクが上昇した。
卵巣がんは、全体(405 vs.291.82件、SIR:1.39、95%CI:1.26~1.53、AER:5.0件/10万人年、95%CI:3.3~6.9)、浸潤性卵巣腫瘍(264 vs.188.1件、1.40、1.24~1.58、3.4件/10万人年、2.0~4.9)、境界悪性卵巣腫瘍(141 vs.103.7件、1.36、1.15~1.60、1.7件/10万人年、0.7~2.8)のいずれのリスクも、生殖補助医療を受けた女性で有意に高かった。
卵巣腫瘍のリスク増加は、子宮内膜症、低経産回数、あるいはこれら双方の女性に限られていた。また、不妊の原因が、男性側の因子のみの場合や不明の場合には、生殖補助医療を受けた女性の卵巣腫瘍のリスク増加はみられなかった。
著者は、「今回の結果は、卵巣腫瘍のリスクは生殖補助医療そのものというよりも、患者の背景因子に起因する可能性を示唆するが、調査のバイアスや治療の影響の可能性もある」とし、「モニタリングの継続が必須である」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)