ACS疑い例の高感度心筋トロポニン測定は、心筋梗塞を抑制するか/Lancet

心筋トロポニンIの高感度アッセイは、心筋障害または心筋梗塞の約6分の1を再分類するが、1年以内の心筋梗塞または心血管死の発生には影響を及ぼさないことが、英国心臓財団Centre for Cardiovascular ScienceのAnoop SV Shah氏らが行ったHigh-STEACS試験で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2018年8月28日号に掲載された。心筋梗塞のUniversal Definitionは、トロポニン測定値の健常基準集団の99パーセンタイル以上への上昇を、心筋梗塞の診断の閾値とするよう推奨しているが、この推奨値が臨床アウトカムを改善するかは不明だという。
ACS疑いの入院患者で、2つのアッセイの診断能を評価
本研究は、急性冠症候群(ACS)疑い例において、男女別の99パーセンタイル診断閾値を用いた高感度心筋トロポニンI(hs-cTnI)アッセイの導入が、心筋梗塞や心血管死を抑制するかを評価するstepped-wedge, cluster-randomized controlled trialであり、スコットランドの2次・3次病院10施設が参加した(英国心臓財団の助成による)。対象は、ACS疑いで救急診療部に入院し、contemporary心筋トロポニンI(cTnI)アッセイおよびhs-cTnIアッセイの双方の測定が行われた患者であった。6~12ヵ月の検証期間中は、hs-cTnIアッセイの結果は医師に知らされず、cTnIアッセイが治療のガイドに用いられた。
参加施設は、初期導入群(5施設)と後期導入群(5施設)に無作為に割り付けられ、前者は検証期間終了直後にhs-cTnIアッセイと男女別の99パーセンタイル診断閾値(女性:>16ng/L、男性:>34ng/L)が導入され、後者は6ヵ月後に導入された。
主要評価項目は、初発入院後1年以内の心筋梗塞(タイプ1、タイプ4b)または心血管死であった。補正後の一般化線形混合モデルを用いて、hs-cTnIアッセイ導入の前後で、hs-cTnIアッセイによって再分類された患者のアウトカムを比較した。
高感度アッセイの99パーセンタイル診断閾値に疑問が生じる
2013年6月10日~2016年3月3日の期間に、ACS疑いの4万8,282例(平均年齢61[SD 17]歳、女性47%)が登録された(検証期間:1万8,978例[39%]、導入期間:2万9,304例[61%])。このうち1万360例(21%)が、心筋トロポニンI濃度が正常範囲の99パーセンタイル以上であることが、cTnIアッセイまたはhs-cTnIアッセイで同定された。hs-cTnIアッセイは、心筋障害または心筋梗塞と判定された1万360例のうち、cTnIアッセイで同定されなかった1,771例(17%)を再分類した。
再分類された患者における1年以内の心筋梗塞または心血管死の発生率は、検証期間が15%(105/720例)、導入期間は12%(131/1,051例)であった(導入期間の検証期間に対する補正オッズ比:1.10、95%信頼区間:0.75~1.61、p=0.620)。
著者は、「これらの知見は、心筋梗塞の診断閾値は健常基準集団の99パーセンタイルとしてよいか、との疑問を生じさせる」としている。
(医学ライター 菅野 守)
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