生徒間のいじめや攻撃行動、暴力は、最も重大な公衆衛生上の精神面の問題の1つとされる。英国・ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のChris Bonell氏らは、“Learning Together”と呼ばれる学校全体への介入により、いじめに対しては小さいものの有意な効果が得られたが、攻撃行動の改善は有意ではなかったとの研究結果を示し、Lancet誌オンライン版2018年11月22日号で報告した。Learning Togetherは、単なる教室ベースの介入ではなく、学校全体の方針やシステムの修正を目指す全校的な介入法である。修復的実践(restorative practice)を活用し、社会情動的スキル(social and emotional skills)を身に付けることで、生徒に学校環境の修正を図るよう促すという。
3年後のいじめと攻撃行動を評価するクラスター無作為化試験
研究グループは、南東イングランドの中等学校において、3年間のLearning Togetherによる介入の経済および作業評価を目的に、クラスター無作為化試験「INCLUSIVE試験」を実施した(英国国立健康研究所[NIHR]の助成による)。
Learning Togetherは、修復的実践におけるスタッフの育成、学校活動グループの招集と活動の促進、生徒の社会情動的スキルに関する教育課程から成る。2014~17年に40の中等学校が登録され、Learning Togetherを行う群(20校)または標準教育を行う対照群(20校)に無作為に割り付けられた。ベースラインの生徒の年齢は11~12歳、フォローアップ終了時は14~15歳だった。
主要アウトカムは、36ヵ月時の自己申告によるいじめ被害および攻撃行動の経験であった。いじめはGatehouse Bullying Scale(GBS:他の生徒からのからかい、うわさ、仲間外れ、身体的脅威、実際の暴力などがあり、対面およびインターネットを介する場合が含まれる)、攻撃行動はEdinburgh Study of Youth Transitions and Crime(ESYTC)school misbehaviour subscaleを用いて評価した。
費用は1人当たり58ポンド増加
40校で7,121例の生徒が登録され、ベースラインのデータは6,667例(93.6%、介入群:3,320例、対照群:3,347例)から、36ヵ月時のデータは7,154例中5,960例(83.3%)で得られた。
36ヵ月時の平均GBSいじめスコアは、介入群が0.29(SE 0.02)、対照群は0.34(SE 0.02)であり、補正平均差に有意差が認められ、介入群で良好であった(補正平均差:-0.03、95%信頼区間[CI]:-0.06~-0.001、p=0.0441、補正効果量:-0.08)。
36ヵ月時の平均ESYTCスコアは、介入群が4.04(SE 0.21)、対照群は4.33(SE 0.20)であり、両群間に有意な差はみられなかった(補正平均差:-0.13、95%CI:-0.43~0.18、p=0.4199、補正効果量:-0.03)。
24ヵ月時の平均GBSいじめスコア(p=0.1581)および平均ESYTCスコア(p=0.7206)には有意差はなかった。
費用については、介入群の生徒は対照群に比べ1人当たり58ポンド負担が大きかった。重篤な有害事象は、介入群が8件(自殺2件、自傷の可能性のある行為4件、刺殺事件2件)、対照群は7件(強姦の可能性のある行為6件、身体障害/長期の病気1件)発生した。
著者は、「学校全体の環境を修正することで生徒の健康を促進する介入は、小児および若者と密接に関連したリスクや、健康アウトカムへの取り組みとして最も実行性が高く、効果的な方法の1つとなる可能性がある」とまとめ、「このような介入に修復的実践を含めることで、若者のいじめや、攻撃性の高い集団の攻撃行動が低減される可能性がある」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)