食道がんに対するハイブリッド低侵襲食道切除術は、開胸食道切除術に比べ術中・術後の重大な合併症の発生率が低く、3年時の全生存率および無病生存率は低下しないことが、フランス・Claude Huriez University HospitalのChristophe Mariette氏の検討で示された。研究の成果は、NEJM誌2019年1月10日号に掲載された。ハイブリッド低侵襲食道切除術は、腹腔鏡を用いる経腹的アプローチと開胸食道切除術を組み合わせた手術法で、肺合併症が少なく、手技の再現が容易などの利点があるとされる。開胸食道切除術では、半数以上の患者で肺合併症を主とする術後合併症が認められるが、合併症に関してハイブリッド低侵襲食道切除術との比較はこれまで行われていなかった。
合併症の発現を比較するフランスの無作為化試験
研究グループは、食道がん患者の治療におけるハイブリッド低侵襲食道切除術の、合併症の発現を開胸食道切除術と比較する、多施設共同非盲検無作為化対照比較試験を行った(フランス国立がん研究所の助成による)。
対象は、18~75歳、中部または下部食道の切除可能な食道がん(扁平上皮がんまたは腺がん)患者であった。被験者は、ハイブリッド低侵襲食道切除術(ハイブリッド手術群)または開胸食道切除術(開胸術群)を受ける群に無作為に割り付けられた。
手術の質の保証は、外科医の資格認定、手技の標準化、技能の監視により行った。ハイブリッド手術群は、腹部と胸部の2つの手術野を設定し(Ivor-Lewis手術とも呼ばれる)、それぞれ腹腔鏡下胃授動術と右開胸食道切除術を実施した。開胸術群は、開腹下胃授動術と右開胸食道切除術を行った。
主要エンドポイントは、術中または術後30日以内に発生したClavien-Dindo分類のGrade2以上の合併症(介入を要する重大な合併症)であった。
重大な合併症が77%、肺合併症は50%低減
2009年10月~2012年4月に、フランスの13施設で207例が登録され、ハイブリッド手術群に103例、開胸術群には104例が割り付けられた。両群1例ずつが、実際には手術を受けなかった。全体の年齢中央値は61歳(範囲:23~78)、男性が85%を占めた。扁平上皮がんが41%、腺がんが59%で、74%が術前補助療法を受けていた。
110例に312件の重篤な有害事象が発現した。術中または術後30日以内に重大な合併症を発現した患者は、ハイブリッド手術群が37例(36%)と、開胸術群の67例(64%)に比べ有意に少なかった(オッズ比[OR]:0.31、95%信頼区間[CI]:0.18~0.55、p<0.001)。補正後の術中または術後30日以内の合併症リスクは、ハイブリッド手術群で77%低下した(補正後OR:0.23、0.12~0.44、p<0.001)。
30日以内の重大な肺合併症の発現は、ハイブリッド手術群では102例中18例(18%)であったのに対し、開胸術群は103例中31例(30%)に認められ、ハイブリッド手術群でリスクが50%低下した(OR:0.50、95%CI:0.26~0.96)。
全生存期間中央値は、ハイブリッド手術群が52.2ヵ月、開胸術群は47.2ヵ月であった。3年時の全生存率は、ハイブリッド手術群が67%、開胸術群は55%で、5年全生存率はそれぞれ60%、40%であり、いずれもハイブリッド手術群で高率であったが、有意な差はなかった(死亡のハザード比[HR]:0.67、95%CI:0.44~1.01)。
また、3年無病生存率はそれぞれ57%、48%で、5年無病生存率は53%、43%であり、ハイブリッド手術群で高かったが、有意差は認めなかった(初回腫瘍再発、二次がん、死亡のHR:0.76、95%CI:0.52~1.11)。
著者は、「本試験は、生存に関して十分な検出力を持たないが、今回の知見を考慮すると、生存をエンドポイントとする試験デザインは、依然として今後の研究において重要な領域である」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)