前駆期アルツハイマー病患者を対象に、アミロイド前駆体タンパク質βサイト切断酵素1(BACE-1)阻害薬verubecestatの有用性を評価した国際的な臨床試験の結果が、米国・MerckのMichael F. Egan氏らにより発表された。verubecestatは、健康成人およびアルツハイマー病患者の脳脊髄液中のアミロイドβ(Aβ)を60%以上低下させ、BACE-2(生理機能は不明)の阻害作用も有するという。中間解析の結果、プラセボと比較して認知症の臨床的評価が改善せず、アルツハイマー病による認知症への進行例の割合が高く、有害事象の発現率も高かった。そのため、データ安全性監視委員会の勧告により、本試験は無効中止となった。NEJM誌2019年4月11日号掲載の報告。
2種の用量とプラセボを比較、22ヵ国238施設の無作為化試験
本研究は、2013年11月~2018年4月の期間に、22ヵ国238施設で実施された二重盲検プラセボ対照並行群間無作為化試験であり、第1部(104週)および第2部(延長期)で構成された(Merck Sharp & Dohmeの助成による)。
対象は、年齢50~85歳、認知症の基準は満たさないものの、1年以上にわたる記憶力の低下を自覚しており、脳アミロイド値の上昇がみられる患者であった。被験者は、verubecestat 12mg/日(12mg群)、同40mg/日(40mg群)またはプラセボを投与する群に無作為に割り付けられた。
主要アウトカムは、ベースラインから104週時までの臨床認知症評価スケール(CDR-SB)のスコア(0~18点、点数が高いほど認知機能と日常生活機能が不良であることを示す)の変化とした。
日本人患者を含む1,454例が登録され、12mg群に485例、40mg群に484例、プラセボ群には485例が割り付けられた。704例(12mg群234例、40mg群231例、プラセボ群239例)が104週の治療を終了し、593例が延長期に登録された時点で、無効中止となった(2018年2月)。
CDR-SBスコアの変化、高用量群で有意に不良
ベースラインの平均年齢は、12mg群71.7歳、40mg群71.0歳、プラセボ群71.6歳で、女性がそれぞれ47.4%、50.4%、44.0%であった。全体の69%がAPOE4保因者で、46%がアルツハイマー病の治療薬を併用していた。
CDR-SBスコアのベースラインから104週時までの推定平均変化量は、12mg群1.65、40mg群2.02、プラセボ群1.58であった(12mg群とプラセボ群との比較のp=0.67、40mg群とプラセボ群との比較のp=0.01)。したがって、高用量群のアウトカムはプラセボ群に比べ、有意に不良であることが示唆された。
アルツハイマー病による認知症へと進行した患者の推定割合は、100人年当たり12mg群24.5、40mg群25.5、プラセボ群19.3(12mg群のプラセボ群に対するハザード比は1.30[97.51%信頼区間:1.01~1.68]、40mg群のプラセボ群に対するハザード比は1.38[同:1.07~1.79]、多重比較の補正なし)であり、プラセボ群が有意に良好だった。
有害事象の頻度は、verubecestat群(12mg群91.3%、40mg群92.1%)がプラセボ群(87.0%)に比べ高かった。重篤な有害事象の頻度は、それぞれ25.7%、20.9%、19.8%であり、3例、1例、3例が死亡した。
verubecestat群で多い有害事象として、皮疹・皮膚炎・蕁麻疹(12mg群19.9%、40mg群20.9%、プラセボ群12.8%)、睡眠障害(7.9%、9.1%、4.5%)、体重減少(5.6%、6.6%、2.1%)、咳嗽(5.8%、6.2%、3.1%)、毛髪変色(2.5%、5.0%、0.0%)が認められた。転倒・負傷(25.7%、25.4%、20.7%)および自殺念慮(6.8%、9.3%、6.4%)も、verubecestat群で多かったが有意差はなかった。
著者は、「より早期Stageの患者のほうが、BACE-1の阻害への感受性が高い可能性がある。また、verubecestatの作用はBACE-2の阻害に起因する可能性もある」としている。
(医学ライター 菅野 守)