腎機能が低下した2型糖尿病患者の薬物療法では、メトホルミンはSU薬に比べ、主要有害心血管イベント(MACE)のリスクが低いことが、米国・ヴァンダービルト大学医療センターのChristianne L. Roumie氏らの検討で示された。研究の詳細は、JAMA誌2019年9月24日号に掲載された。従来、安全性に関する懸念から、腎臓病を有する糖尿病患者ではメトホルミンの使用が制限されていたが、2016年4月、米国食品医薬品局(FDA)は軽症~中等症の腎臓病患者におけるメトホルミンの安全性のエビデンスに基づいてガイダンスを変更し、軽度腎機能障害(eGFR:45~60mL/分/1.73m2)および中等度腎機能障害の一部(30~45mL/分/1.73m2)では安全に使用可能としている。一方、腎機能が低下した糖尿病患者の臨床転帰に及ぼすメトホルミンの効果は明らかにされていないという。
MACE発生を比較する後ろ向きコホート研究
本研究では、米国の国立退役軍人保健局(VHA)の施設で治療を受けた退役軍人の後ろ向きコホート研究であり、2001~16年のメディケア、メディケイド、National Death Indexと関連付けて補足したデータが用いられた(米国VA Clinical Science Research and Developmentなどの助成による)。
年齢18歳以上で、定期的にVHAのケアを受けている退役軍人の中から、メトホルミンまたはSU薬(glipizide、glyburide[グリベンクラミド]、グリメピリド)の新規使用者を選出することで2型糖尿病患者を特定した。これらの患者を長期的に追跡し、腎機能が低下した患者(eGFR<60mL/分/1.73m
2または血清クレアチニン値が女性は≧1.4mg/dL、男性は≧1.5mg/dL)を選出した。
以降は、MACE、治療変更、追跡不能、死亡、試験終了(2016年12月31日)まで追跡を継続した。腎機能低下以降も血糖降下治療を継続したメトホルミンまたはSU薬の新規使用者を解析の対象とした。
主要アウトカムは、MACE(急性心筋梗塞・脳卒中・一過性脳虚血発作による入院、心血管死)とした。傾向スコアで重み付けをして治療群間でMACEの原因別ハザードを比較し、治療変更および心血管系以外の原因による死亡の競合リスクを考慮して累積リスクを推算した。
MACEが1,000人年当たり5.8件減少
メトホルミンまたはSU薬の単剤治療を継続した患者は、それぞれ6万7,749例および2万8,976例であった。重み付けコホートは、メトホルミン群が2万4,679例、SU薬群は2万4,799例であり、全体の登録時の年齢中央値は70歳(IQR:62.8~77.8)、4万8,497例(98%)が男性、4万476例(82%)が白人で、eGFR中央値は55.8mL/分/1.73m
2(51.6~58.2)、HbA1c中央値は6.6%(6.1~7.2)であった。追跡期間中央値は、メトホルミン群が1.0年、SU薬群は1.2年だった。
追跡期間中における傾向スコア重み付け後のMACE発生率は、メトホルミン群が23.0/1,000人年、SU薬群は29.2/1,000人年であった。共変量で補正後のメトホルミン群のSU薬群に対するMACE原因別補正ハザード比(HR)は、0.80(95%信頼区間[CI]:0.75~0.86)であり、メトホルミン群はSU薬群に比べMACEイベントが1,000人年当たり5.8件(95%CI:4.1~7.3)減少した。
1年後の累積MACE発生率は、メトホルミン群が1.9%、SU薬群は2.5%であり、3年後はそれぞれ3.4%および4.4%、4年後は3.8%および4.9%であった。
MACEの構成要素である急性心筋梗塞・脳卒中・一過性脳虚血発作による入院(補正後HR:0.87[95%CI:0.80~0.95]、補正後群間発生率差:-2.4[95%CI:-3.7~-0.9])および心血管死(0.70[0.63~0.78]、-3.8[-4.7~-2.8])についても、同様の結果であった。また、主要アウトカムから一過性脳虚血発作を除外した副次アウトカムの結果(0.78[0.72~0.84]、-5.9[-7.6~-4.3])も一致していた。
著者は、「FDAは、腎機能の評価はクレアチニンではなくeGFRで行うことを推奨している。eGFRが低下した患者では、頻回のモニタリングと減量により、メトホルミンの使用は可能と考えられるが、30mL/分/1.73m
2未満の患者では禁忌である」としている。
(医学ライター 菅野 守)