大手術後の合併症リスクが高い患者において、浅い全身麻酔は深い全身麻酔と比較して1年死亡率を低下しないことが示された。ニュージーランド・Auckland City HospitalのTimothy G. Short氏らによる、高齢患者を対象に検討した国際多施設共同無作為化試験「Balanced Anaesthesia Study」の結果で、著者は「今回の検討で、処理脳波モニターを用いて揮発性麻酔濃度を調節した場合、広範囲にわたる麻酔深度で麻酔は安全に施行できることが示された」とまとめている。麻酔深度の深さは、術後生存率低下と関連することがこれまでの観察研究で示されていたが、無作為化試験でのエビデンスは不足していた。Lancet誌オンライン版2019年10月20日号掲載の報告。
術後合併症リスクが高い高齢者で、浅麻酔と深麻酔での1年全死因死亡率を比較
研究グループは7ヵ国73施設において、明らかな併存疾患を有し手術時間が2時間以上かつ入院期間が2日以上と予想される60歳以上の患者を登録し、大手術後の合併症リスクが高い患者を、bispectral index(BIS)を指標として浅い全身麻酔(浅麻酔群:BIS値50)または深い全身麻酔(深麻酔群:BIS値35)の2群に手術直前に無作為に割り付けた(地域別の置換ブロック法)。なお、患者および評価者は、割り付けに関して盲検化された。また、麻酔科医は、各患者の術中の平均動脈圧を適切な範囲に管理した。
主要評価項目は、1年全死因死亡率で、解析にはlog-rank検定およびCox回帰モデルを使用した。
1年全死亡率は両群で有意差なし
2012年12月19日~2017年12月12日の期間に、スクリーニングされ適格基準を満たした1万8,026例中、6,644例が登録および無作為化された(intention-to-treat集団:浅麻酔[BIS50]群3,316例、深麻酔[BIS35]群3,328例)。
BIS中央値は、浅麻酔群で47.2(四分位範囲[IQR]:43.7~50.5)、深麻酔群で38.8(36.3~42.4)であった。平均動脈圧中央値はそれぞれ84.5mmHg(IQR:78.0~91.3)および81.0mmHg(75.4~87.6)であり、浅麻酔群が3.5mmHg(4%)高かった。一方、揮発性麻酔薬の最小肺胞濃度は、それぞれ0.62(0.52~0.73)および0.88(0.74~1.04)であり、浅麻酔群が0.26(30%)低かった。
1年全死因死亡率は、浅麻酔群6.5%(212例)、深麻酔群7.2%(238例)であった(ハザード比:0.88[95%信頼区間[CI]:0.73~1.07]、絶対リスク低下:0.8%[95%CI:-0.5~2.0])。
Grade3の有害事象は、浅麻酔群で954例(29%)、深麻酔群で909例(27%)に、Grade4の有害事象はそれぞれ265例(8%)および259例(8%)に認められた。最も報告が多かった有害事象は、感染症、血管障害、心臓障害および悪性新生物であった。
なお、著者は、両群で目標BIS値に到達していなかったこと、1年全死因死亡率が予想より2%低かったこと、揮発性麻酔薬で維持した全身麻酔に限定され、プロポフォール静脈投与による麻酔の維持に関する情報がないことなどを研究の限界として挙げている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)