80歳以上の非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)患者においても、侵襲的治療は非侵襲的治療と比べて生存アドバンテージを拡大することが、英国・インペリアル・カレッジ・ロンドンのAmit Kaura氏らによるルーチン臨床データをベースにしたコホート研究の結果、示された。侵襲的治療群の5年死亡リスクは約3割低減し、心不全による入院リスクも約3割低かったという。先行研究で、NSTEMI患者への侵襲的治療は非侵襲的治療よりも長期死亡リスクを低減することが示されているが、高齢患者は試験から除外されていた。Lancet誌2020年8月29日号掲載の報告。
英国内5病院から80歳以上NSTEMI患者の臨床データを収集し検討
研究グループは、英国内にあるNIHR生物医学研究センターの5つの協力病院(インペリアル・カレッジ・ヘルスケア、ユニバーシティ・カレッジ・ホスピタル、オックスフォード大学病院、キングス・カレッジ・ホスピタル、聖トーマス病院)からルーチン臨床データを集めて解析を行った。2010年(ユニバーシティ・カレッジ・ホスピタルは2008年)から2017年にかけて、トロポニン値測定およびNSTEMI診断の時点で80歳以上の患者を対象に試験を行った。試験対象の5病院はいずれも、救急部門(ER)を備えた3次医療センターだった。
治療前の変数に基づく傾向スコア(患者が侵襲的治療を受ける推定確率)を、ロジスティック回帰法により導出し、侵襲的治療または非侵襲的治療を受ける確率が高い患者については、分析から除外した。トロポニン値ピーク時から3日以内に、侵襲的治療を受けずに死亡した患者は、傾向スコアに基づき侵襲的治療群または非侵襲的治療群に割り付け、イモータルタイム(不死時間)バイアスを緩和した。
侵襲的治療と非侵襲的治療の比較による死亡に関するハザード比(HR)を推算し、また、心不全による入院率を比較した。
累積5年死亡率、侵襲的治療群36%、非侵襲的治療群55%
NSTEMI患者1,976例のうち、トロポニン値ピーク時から3日以内の死亡は101例だった。また、傾向スコアが極端な値だった375例は解析から除外した。残る1,500例の年齢中央値は86歳(IQR:82~89)、非侵襲的治療を受けたのは845例(56%)だった。
追跡期間中央値3.0年(IQR:1.2~4.8)で、613例(41%)が死亡した。
補正後累積5年死亡率は、侵襲的治療群36%、非侵襲的治療群55%だった(補正後HR:0.68、95%信頼区間[CI]:0.55~0.84)。
侵襲的治療は、心不全による入院発生頻度の低下とも関連した(非侵襲的治療群に対する侵襲的治療群の補正後率比:0.67、95%CI:0.48~0.93)。
(医療ジャーナリスト 當麻 あづさ)