開発中の重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)のワクチン「NVX-CoV2373」は、接種後35日の時点で安全と考えられ、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の回復期血清中のレベルを上回る免疫応答を誘導することが、米国・NovavaxのCheryl Keech氏らの検討で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2020年9月2日号に掲載された。NVX-CoV2373は、三量体完全長(すなわち膜貫通ドメインを含む)のスパイク糖蛋白から成る遺伝子組み換えSARS-CoV-2(rSARS-CoV-2)ナノ粒子ワクチンと、Matrix-M1アジュバントを含有する。動物モデルでは、SARS-CoV-2に対する防御効果が確認されている。なお、Novavaxは本ワクチンの日本国内での開発、製造、流通について、武田薬品と提携している。
プラセボ対照無作為化第I/II相試験の第I相の結果
研究グループは、rSARS-CoV-2ワクチン(NVX-CoV2373、開発元:Novavax)の安全性と免疫原性を評価する目的で、プラセボ対照無作為化第I/II相試験を進めている(感染症流行対策イノベーション連合[CEPI]の助成による)。この試験は2020年5月26日に開始され、今回は、オーストラリアの2施設が参加した第I相試験の結果(接種後35日の解析)が報告された。
対象は、18~60歳未満の健康な成人131例であった。第I相では、21日の間隔を空けて2回、ワクチンが筋肉内注射された。ワクチン用量は5μgまたは25μg、Matrix-M1アジュバント(50μg)は添加と非添加に分けられ、7つの群が設定された。
主要アウトカムは、反応原性(接種部位:疼痛、圧痛、紅斑、腫脹、全身性:発熱、悪心・嘔吐、頭痛、疲労感、不快感、筋肉痛、関節痛)、米国食品医薬品局(FDA)の毒性スコアに基づく安全性評価の検査値(血液生化学、血液学)、抗スパイクタンパク質IgG抗体反応(酵素免疫測定法[ELISA]単位)とした。副次アウトカムには、自発的に報告された有害事象、野生型ウイルスの中和(マイクロ中和抗体測定)、T細胞反応(サイトカイン染色)などが含まれた。
免疫原性(IgG抗体およびマイクロ中和抗体)の結果は、多くが有症状のCOVID-19患者から採取した回復期血清サンプルと比較された。初回接種から35日の時点で、初回解析が行われた。
反応原性はなし~軽度で、2回の接種とも2日以内に消退
131例の参加者のうち、83例がワクチン+アジュバント、25例がワクチンのみ、23例はプラセボを接種する群に割り付けられた。7つの群の平均年齢の範囲は23.7~35.6歳、女性の割合は32.0~65.4%であった。
全体で、重篤な有害事象は認められず、ワクチン接種中止規則は実行されなかった。反応原性は、ほとんどの参加者がなしあるいは軽度であり、アジュバント投与例で頻度が高い傾向がみられたが、反応原性が原因で2回目の接種が中止あるいは延期されることはなかった。
1例に、2回目の接種後1日のみの発熱(38.1度)が認められた。2回目の接種後に7日を超える有害事象はみられなかった。また、反応原性イベントの平均持続期間は、初回および2回目の接種後とも2日以内だった。
Grade2以上の検査値異常は13例(10%)で認められ、初回接種後が9例、2回目接種後は4例であった。検査値異常が臨床症状と関連することはなく、再接種による増悪もみられなかった。
自発的に報告された有害事象は、ほとんどが軽度で、アジュバント投与の有無で差はなく、重度の有害事象はみられなかった。
アジュバントを投与した場合、ワクチン用量5μgと25μgとで免疫応答はほぼ同等であり、アジュバント添加による用量節減効果が示された。また、アジュバント添加により1型ヘルパーT細胞(Th1)反応が誘導された。
2回のワクチン用量5μg+アジュバント添加レジメンの抗スパイクタンパク質IgG抗体の幾何平均値(63,160 ELISA単位)および中和抗体反応の幾何平均値(3,906)は、ほとんどが有症状のCOVID-19患者における回復期血清(抗スパイクタンパク質IgG抗体幾何平均値:8,344 ELISA単位、中和抗体反応幾何平均値:983)を上回っていた。
著者は、「これらの結果により、アジュバント添加遺伝子組み換え完全長スパイクタンパク質ナノ粒子ワクチンNVX-CoV2373は、有効性試験での評価を要する有望な候補であることが示された。35日目の安全性の初回解析の結果に基づき、第II相試験が開始されており、第III相試験も準備段階にある」としている。
(医学ライター 菅野 守)