小児期の血中鉛濃度の上昇は、中年期における脳構造の完全性低下を示唆する脳構造の変化(MRI評価によるもの)と関連していたことが示された。米国・デューク大学のAaron Reuben氏らが、ニュージーランドで実施した追跡期間中央値34年にわたる縦断コホート研究「Dunedin研究」の結果を報告した。小児期の鉛曝露は脳発達の障害に関連しているとされてきたが、脳構造完全性への長期的な影響は不明であった。なお、得られた所見について著者は限定的な結果であるとしている。JAMA誌2020年11月17日号掲載の報告。
11歳時の血中鉛濃度と45歳時のMRIによる脳構造評価の関連を解析
Dunedin研究は、ニュージーランドにおける1972~73年の出生コホート(1,037例)を、45歳まで追跡調査したものである(2019年4月まで)。11歳時点で小児期の鉛曝露を測定し、45歳時点でMRIにより脳構造を評価するとともに、認知機能についてウェクスラー成人認知機能検査IVによる客観的な評価(IQ範囲:40~160、標準化平均100[SD 15])と、情報提供者を介した報告および自己報告による主観的な評価(zスコア、スケール平均は0[SD 1])を行った。
主要評価項目は、45歳時点での脳構造の完全性で、灰白質(皮質厚、表面積、海馬体積)、白質(白質高信号域、拡散異方性[理論的範囲、0(完全に等方性)~100(完全に異方性)])、およびBrain Age Gap Estimation(BrainAGE)(暦年齢と機械学習アルゴリズムで推定した脳年齢との差の複合指標[0:脳年齢と暦年齢が等しい、正/負の値はそれぞれ脳年齢が高い/若いことを意味する])について評価した。
小児期の血中鉛濃度高値は、中年期の皮質表面積や海馬体積などの減少と関連
1,037例中997例が45歳時点で生存しており、このうち11歳時点で鉛の検査を受けていた564例(男性302例、女性262例)を解析対象とした(追跡期間中央値34年、四分位範囲:33.7~34.7年)。11歳時点での血中鉛濃度は平均10.99(SD 4.63)μg/dLであった。
共変量調整後、小児期の血中鉛濃度が5μg/dL増加するごとに、皮質表面積が1.19cm
2減少(95%信頼区間[CI]:-2.35~-0.02cm
2、p=0.05)、海馬体積が0.10cm
3減少(95%CI:-0.17~-0.03cm
3、p=0.006)、拡散異方性の低下(
b=-0.12、95%CI:-0.24~-0.01、p=0.04)、45歳時点でのBrainAGEが0.77歳増加(95%CI:0.02~1.51、p=0.05)が認められた。血中鉛濃度と、白質高信号域(
b=0.05 log mm
3、95%CI:-0.02~0.13 log mm
3、p=0.17)や平均皮質厚(
b=-0.004mm、95%CI:-0.012~0.004mm、p=0.39)との間に統計的な有意差はなかった。
また、小児期の血中鉛濃度が5μg/dL増加するごとに、45歳時点のIQスコアが2.07低下(95%CI:-3.39~-0.74、p=0.02)、情報提供者の評価による認知機能障害スコアが0.12増加(95%CI:0.01~0.23、p=0.03)と有意な関連が認められた。小児期の血中鉛濃度と自己報告による認知機能との間に統計学的な関連は確認されなかった(
b=-0.02ポイント、95%CI:-0.10~0.07、p=0.68)。
なお、著者は、観察研究のため因果関係については証明できないこと、いくつかの結果ではタイプIエラーの可能性があることなどを研究の限界として挙げている。
(医学ライター 吉尾 幸恵)