2型糖尿病を併発する慢性腎臓病(CKD)患者において、finerenoneの投与はプラセボに比べ、CKDの進行と心血管イベントのリスクを低減させることが、米国・シカゴ大学病院のGeorge L. Bakris氏らが行った「FIDELIO-DKD試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2020年12月3日号に掲載された。2型糖尿病はCKDの主要な原因であり、2型糖尿病患者のCKD管理ガイドラインでは、高血圧や高血糖の管理とともにさまざまな薬物療法が推奨されているが、CKDの進行のリスクは解消されておらず、新たな治療が求められている。finerenoneは、非ステロイド性選択的ミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬で、CKDと2型糖尿病を併発する患者を対象とする短期試験でアルブミン尿を減少させると報告されている。
finerenoneがCKDの進行を抑制するとの仮説を検証
研究グループは、2型糖尿病を合併するCKD進行例において、finerenoneはCKDの進行を抑制し、心血管系の併存疾患や死亡を低下させるとの仮説を検証する目的で、二重盲検プラセボ対照無作為化第III相試験を行った(Bayerの助成による)。2015年9月~2018年6月の期間に、48ヵ国でスクリーニングと無作為化が行われた。
対象は、年齢18歳以上のCKDと2型糖尿病を有する患者であった。尿中アルブミン/クレアチニン比(アルブミンはmg、クレアチニンはg単位で測定)が≧30~<300、推算糸球体濾過量(eGFR)が≧25~<60mL/分/1.73m
2体表面積で糖尿病性網膜症を有する患者、または尿中アルブミン/クレアチニン比が300~5,000でeGFRが≧25~<75mL/分/1.73m
2の患者が適格例とされた。全例がレニン-アンジオテンシン系(RAS)阻害薬(ACE阻害薬、ARB)による治療を受け、無作為化の前に、投与量を製薬会社の添付文書に記載された忍容できない副作用を起こさない最大用量に調節された。
被験者は、finerenoneを経口投与する群またはプラセボ群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。
主要複合アウトカムは、腎不全、eGFRのベースラインから40%以上の持続的な低下、腎臓死とし、time-to-event解析で評価された。主要な副次複合アウトカムは、心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、心不全による入院であり、time-to-event解析で評価が行われた。
finerenone群で主要複合アウトカムのイベントが有意に低下
5,674例が解析に含まれ、2,833例がfinerenone群(平均年齢[SD]65.4±8.9歳、男性68.9%)、2,841例がプラセボ群(65.7±9.2歳、71.5%)に割り付けられた。98.1%がACE阻害薬、98.8%がARBの忍容できない副作用を起こさない最大用量による治療を受けていた。フォローアップ期間中央値は2.6年だった。
主要アウトカムのイベントは、finerenone群が2,833例中504例(17.8%)、プラセボ群は2,841例中600例(21.1%)で発生し、finerenone群で有意に低下した(ハザード比[HR]:0.82、95%信頼区間[CI]:0.73~0.93、p=0.001)。各構成要素の発生は、eGFRのベースラインから40%以上の持続的な低下(0.81、0.72~0.92)と腎不全(0.87、0.72~1.05)はfinerenone群で低い傾向があり、腎臓死は両群とも2例ずつで認められた。
主要な副次アウトカムのイベントは、finerenone群が367例(13.0%)、プラセボ群は420例(14.8%)で発生し、finerenone群で有意に良好だった(HR:0.86、95%CI:0.75~0.99、p=0.03)。各構成要素の発生は、非致死的脳卒中(1.03、0.76~1.38)を除き、心血管死(0.86、0.68~1.08)、非致死的心筋梗塞(0.80、0.58~1.09)、心不全による入院(0.86、0.68~1.08)はいずれもfinerenone群で低い傾向がみられた。
試験期間中に発現した有害事象の頻度は両群で同程度であり(finerenone群87.3% vs.プラセボ群87.5%)、重篤な有害事象はそれぞれ31.9%および34.3%で発生した。高カリウム血症関連の有害事象の頻度は、finerenone群がプラセボ群の約2倍(18.3% vs.9.0%)で、試験レジメン中止の原因となった高カリウム血症の頻度もfinerenone群で高かった(2.3% vs.0.9%)。
著者は、「finerenoneの有益性は、部分的にナトリウム利尿作用の機序を介していることが示唆される」とし、「本試験の参加者は多くがCKD進行例で、アルブミン尿がみられない患者や2型糖尿病に起因しないCKDは除外しており、黒人の参加者は4.7%にすぎないことから、今回の知見の一般化可能性は限定的と考えられる」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)