StandingTallは、アプリケーションを用いて自宅で行うe-ヘルスのバランス感覚練習プログラム。オーストラリア・Neuroscience Research AustraliaのKim Delbaere氏らは、高齢者の自己管理による転倒予防におけるStandingTallの有用性を検討し、1年間では転倒率や転倒者の割合は改善されないものの、2年間継続すると、転倒率や処置を要する転倒の割合が低下する可能性があることを示した。研究の成果は、BMJ誌2021年4月6日号に掲載された。
シドニー市の高齢者の無作為化対照比較試験
研究グループは、地域居住高齢者の転倒予防におけるStandingTallの有用性の検討を目的に、評価者盲検下の無作為化対照比較試験を実施した(オーストラリア国立保健医療研究会議[NHMRC]の助成による)。
対象は、年齢70歳以上のシドニー市の居住者で、日常生活動作が自立しており、認知障害や進行性の神経障害がなく、運動が不能となる不安定または急性期の病態がみられない人々であった。被験者は、介入群(StandingTall[週2時間]+健康教育)または対照群(健康教育)に無作為に割り付けられた。すべての参加者に、タブレット型コンピュータが配布された。試験期間は2年間であった。
主要アウトカムは、転倒率(1人年当たりの転倒件数)および12ヵ月の時点で少なくとも1回の転倒を経験した参加者の割合とした。副次アウトカムは、24ヵ月の時点での転倒者数および処置を要する転倒(負傷を伴う、または治療を要する転倒)をした参加者の割合、アドヒアランス、気分、健康関連QOL、活動性の程度などであった。
練習中の転倒が3人に5件発生
2015年2月~2017年10月の期間に503人が登録され、介入群に254人(平均年齢77.1歳、女性69.7%)、対照群には249人(77.7歳、65.1%)が割り付けられた。
12ヵ月の時点における平均転倒率は、介入群が0.60件/年(SD 1.05)、対照群は0.76件/年(1.25)で、転倒発生の率比は0.84(95%信頼区間[CI]:0.62~1.13)であり、両群間に有意な差は認められなかった(p=0.071)。また、12ヵ月の時点での転倒者の割合は、介入群が34.6%、対照群は40.2%と、有意差はみられなかった(相対リスク:0.90、95%CI:0.67~1.20、p=0.461)。
一方、24ヵ月の時点における平均転倒率は、介入群が対照群よりも16%低く、介入群で有意に良好であった(0.57件/年vs.0.72件/年、率比:0.84、95%CI:0.72~0.98、p=0.027)。また、24ヵ月時の転倒者の割合は両群で同程度(相対リスク:0.87、95%CI:0.68~1.10、p=0.239)であったが、処置を要する転倒をした参加者の割合は、介入群が対照群に比べ20%少なかった(0.80、0.66~0.98、p=0.031)。
介入群では、12ヵ月時に練習を継続していたのは68.1%、24ヵ月時は52.0%で、週当たりの練習時間中央値はそれぞれ114.0分/週(IQR:53.5)および120.4分/週(38.6)であった。
気分(9項目患者健康質問票[PHQ-9])および日常生活の活動性(McRoberts MoveMonitor)は、両群とも同程度で維持されていた。また、介入群では、EQ-5D-5L(EuroQol five dimension five level)の効用値が、6ヵ月の時点で0.03(95%CI:0.01~0.06)改善され、立位バランスが6ヵ月時に11秒(2~19)、12ヵ月時には10秒(1~19)改善された。
介入群では、練習中に3人の参加者で5件の転倒がみられ、軽傷(擦りむき、打撲傷、切り傷)を負った。これらの転倒は介入と直接に関連していた。練習関連の重篤な有害事象は認められなかった。
著者は、「これらの結果は、個別化されたe-ヘルスの運動プログラムは高齢者の転倒予防において有効な介入法であることを示している。StandingTallは拡張性のある介入法で、実地診療への導入が容易であり、医療従事者がプログラムを遠隔で設定し、監視し、個々の患者に合わせて調整するプラットフォームを提供する。また、StandingTallは使用者の自主性に重点が置かれ、医療従事者とのやりとりは最小限で済む」としている。今後は、経済的な評価を行う予定だという。
(医学ライター 菅野 守)