米国および英国の成人において、不健康な生活習慣が健康の社会経済的格差に及ぼす影響は小さいことが、中国・華中科技大学のYan-Bo Zhang氏らによるコホート研究データの解析の結果で示された。結果を踏まえて著者は、「健康的な生活習慣の推進だけでは、健康の社会経済的格差は縮小されない可能性があり、健康の社会的決定要因に取り組む他の方策が必要である」と指摘したうえで、「それでも、健康的な生活習慣はさまざまな社会経済的地位の集団において全死因死亡および心血管疾患(CVD)のリスク低下と関連しており、疾病負担の軽減における健康的な生活習慣の役割は重要である」と述べている。BMJ誌2021年4月14日号掲載の報告。
米国NHANESから約4万5千人、英国Biobankから約40万人のデータを解析
研究グループは、社会経済的地位と死亡およびCVD発症との関連に生活習慣が影響するかどうか、また、生活習慣と社会経済的地位の交互作用や関連の程度を検討する目的で、米国の国民健康栄養調査(NHANES、1988~94年および1999~2014年)、英国のBiobankのデータを用いてコホート研究を行った。解析対象は、20歳以上の米国成人4万4,462人および37~73歳の英国成人39万9,537人である。
社会経済的地位は、世帯収入、職業・雇用形態、教育レベル、健康保険(米国のみ)を用いた潜在クラス分析により、項目回答確率に応じて3段階(低、中、高)に分類した。健康的な生活習慣のスコアは、喫煙未経験、大量飲酒なし(女性は1日1杯以下、男性は1日2杯以下、1杯のエタノール含有量は米国では14g、英国では8g)、身体活動量上位3分の1、および食事の質の高さの情報を用いて構築した。
主要評価項目は、米国集団では全死因死亡、英国集団では全死因死亡、CVD死および発症であった。
社会経済的地位が低い成人は高い成人と比べ転帰不良のリスクが高い
米国集団では追跡期間平均11.2年で死亡が8,906人、英国集団では同8.8~11.0年で死亡が2万2,309人、CVD発症が6,903件記録された。
社会経済的地位が低い成人における年齢調整死亡リスク(1,000人年当たり)は、米国集団22.5(95%信頼区間[CI]:21.7~23.3)、英国集団7.4(95%CI:7.3~7.6)、英国集団の年齢調整CVDリスク(1,000人年当たり)は2.5(95%CI:2.4~2.6)であった。一方、社会経済的地位が高い成人では、それぞれ11.4(95%CI:10.6~12.1)、3.3(95%CI:3.1~3.5)、1.4(95%CI:1.3~1.5)であった。
社会経済的地位が低い成人は、高い成人と比較した場合のハザード比(HR)(生活習慣で補正後)が、全死因死亡は米国集団2.13(95%CI:1.90~2.38)、英国集団1.96(95%CI:1.87~2.06)、英国集団におけるCVD死は2.25(95%CI:2.00~2.53)、同CVD発症は1.65(95%CI:1.52~1.79)で、いずれも高かった。
また、生活習慣の影響度(proportion mediated)は、米国集団の全死因死亡12.3%(95%CI:10.7~13.9%)、英国集団の全死因死亡4.0%(95%CI:3.5~4.4%)、英国集団のCVD死3.0%(95%CI:2.5~3.6%)、同CVD発症3.7%(95%CI:3.1~4.5%)であった。米国集団では生活習慣と社会経済的地位の間に有意な交互作用はなかったが、英国集団では社会経済的地位が低い成人で生活習慣と転帰に強い関連が認められた。
社会経済的地位が高く健康的な生活習慣の要素を3または4つ有する成人に比べて、社会経済的地位が低く健康的な生活習慣の要素が1つまたはまったくない成人は、全死因死亡(HR:米国集団3.53[95%CI:3.01~4.14]、英国集団2.65[95%CI:2.39~2.94])、英国集団におけるCVD死(HR:2.65、95%CI:2.09~3.38)およびCVD発症(HR:2.09、95%CI:1.78~2.46)のリスクが高かった。
(ケアネット)