非重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)入院患者の治療において、治療量のヘパリンを用いた抗凝固療法は通常の血栓予防治療と比較して、集中治療室(ICU)における心血管系および呼吸器系の臓器補助なしでの生存退院の割合を改善し、この優越性はDダイマー値の高低を問わないことが、カナダ・トロント大学のPatrick R. Lawler氏らが実施した、3つのプラットフォーム(ATTACC試験、ACTIV-4a試験、REMAP-CAP試験)の統合解析で示された。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2021年8月4日号で報告された。
中等症入院患者の適応的マルチプラットフォーム試験
研究グループは、治療量の抗凝固療法はCOVID-19による非重症入院患者の転帰を改善するとの仮説を立て、これを検証する目的で、非盲検適応的マルチプラットフォーム無作為化対照比較試験を行った(ATTACC試験はカナダ保健研究機構[CIHR]など、ACTIV-4a試験は米国国立心臓・肺・血液研究所[NHLBI]など、REMAP-CAP試験は欧州連合[EU]などによる助成を受けた)。本研究では、2020年4月21日~2021年1月22日の期間に、9ヵ国121施設で患者登録が行われた。
対象は、中等症のCOVID-19で、登録時に入院を要するが、臓器補助は必要とせずICUへの入室が不要な患者であった。被験者は、治療量のヘパリンを用いた抗凝固療法を受ける群、または通常の血栓予防薬の投与を受ける群に無作為に割り付けられた。
主要アウトカムは臓器補助離脱日数とし、院内死亡(最も不良なアウトカム、-1点)と、最長で21日までの生存退院時における心血管系または呼吸器系の臓器補助なしの日数(0~21点)を合わせた順序尺度(ICUでの介入と生存を反映し、点数が高いほどアウトカムが良好)で評価された(21日までに臓器補助なしで生存退院した場合は22点[最良のアウトカム]と判定された)。このアウトカムの評価は、全例およびベースラインのDダイマー値別に、ベイズ流統計モデルを用いて行われた。
本研究は、1,398例の適応的解析においてDダイマー値の高値集団と低値集団の双方で、治療量抗凝固療法群が事前に規定された優越性の中止基準に到達したため、2021年1月22日、データ安全性監視委員会の勧告により患者登録が中止された。
1,000例当たり大出血7件増、臓器補助なし生存退院40例増
ベースラインの平均年齢(±SD)は、治療量抗凝固療法群が59.0±14.1歳、通常血栓予防薬群は58.8±13.9歳、男性がそれぞれ60.4%および56.9%であった。最終解析には2,219例(治療量抗凝固療法群1,171例、通常血栓予防薬群1,048例)が含まれた。治療量抗凝固療法群のうちデータが得られた1,093例では、94.7%(1,035例)が低分子量ヘパリン(ほとんどがエノキサパリン)の投与を受けていた。通常血栓予防薬群は、71.7%が低用量の、26.5%が中用量の血栓予防薬の投与を受けた。
治療量抗凝固療法群で、通常血栓予防薬群に比べ臓器補助離脱日数が増加する事後確率は、98.6%(補正後オッズ比中央値:1.27、95%信用区間[CrI]:1.03~1.58)であった。21日までに臓器補助なしで生存退院した患者は、治療量抗凝固療法群が1,171例中939例(80.2%)、通常血栓予防薬群は1,048例中801例(76.4%)、補正後絶対差中央値は4.0ポイント(95%CrI:0.5~7.2)であり、抗凝固療法群で良好だった。
治療量抗凝固療法群で臓器補助離脱日数が優越する事後確率は、Dダイマー高値(各施設の基準値上限の≧2倍)の集団で97.3%、同低値(同<2倍)の集団で92.9%、同不明の集団では97.3%であった。
大血栓イベント/死亡(心筋梗塞、肺塞栓症、虚血性脳卒中、全身性動脈塞栓症、院内死亡の複合)は、治療量抗凝固療法群で8.0%(94/1,180例)、通常血栓予防薬群で9.9%(104/1,046例)に発現した。大出血はそれぞれ1.9%(22/1,180例)および0.9%(9/1,047例)、致死的出血は3例および1例にみられた。頭蓋内出血やヘパリン起因性血小板減少症は認められなかった。
著者は、「これらの知見に基づくと、治療量抗凝固療法は通常血栓予防薬と比較して、中等症COVID-19入院患者1,000例当たり、大出血イベントを7件増やす一方で、40例に臓器補助なしでの生存退院を追加的にもたらす可能性が示唆される」としている。
(医学ライター 菅野 守)