手術リスクが低い二尖弁大動脈弁狭窄症の患者に対する経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)は三尖弁大動脈弁狭窄症と比較して、30日および1年後の死亡、30日および1年後の脳卒中の発生に有意な差はなく、1年後の大動脈弁圧較差や中等度~重度の人工弁周囲逆流の頻度にも差はないことが、米国・シダーズ・サイナイ医療センターのRaj R. Makkar氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌2021年9月21日号で報告された。
米国のレジストリベースのコホート研究
研究グループは、手術リスクの低い二尖弁大動脈弁狭窄症と三尖弁大動脈弁狭窄症の患者における、第3または4世代のバルーン拡張型人工弁(Sapien 3、Sapien 3 Ultra、米国・Edwards Lifesciences製)のアウトカムの比較を目的に、レジストリを用いたコホート研究を行った(Edwards Lifesciencesの助成による)。
参加者のデータは、米国で実施されたすべてのTAVR手技が含まれる米国胸部外科医学会(STS)/米国心臓病学会(ACC)の経カテーテル的人工弁療法(TVT)レジストリから得られた。手術リスクは、STSの予測死亡リスク(STS-PROM)のスコア(0~100%、数値が高いほど術後30日以内の死亡リスクが高い)が3%未満の場合に「低い」と定義された。
主要複合アウトカムは、30日および1年後の死亡、脳卒中とされた。副次アウトカムは手技関連合併症などであった。
1年後の死亡:4.6% vs.6.6%、1年後の脳卒中:2.0% vs.2.1%
2015年6月~2020年10月の期間に米国の684施設で、大動脈弁狭窄症の15万9,661例(二尖弁大動脈弁狭窄症7,058例、三尖弁大動脈弁狭窄症15万2,603例)がバルーン拡張型人工弁を用いたTAVRを受けた。このうち、傾向スコアでマッチングされた手術リスクの低い二尖弁狭窄症3,168例と三尖弁狭窄症3,168例が解析に含まれた(全体の平均年齢69歳、男性69.8%、平均STS-PROMスコア[SD]:二尖弁狭窄症1.7[0.6]%、三尖弁狭窄症1.7[0.7]%)。
二尖弁狭窄症と三尖弁狭窄症で、30日後の死亡(0.9% vs.0.8%、ハザード比[HR]:1.18、95%信頼区間[CI]:0.68~2.03、p=0.55)、1年後の死亡(4.6% vs.6.6%、0.75、0.55~1.02、p=0.06)、30日後の脳卒中(1.4% vs.1.2%、1.14、0.73~1.78、p=0.55)、1年後の脳卒中(2.0% vs.2.1%、1.03、0.69~1.53、p=0.89)の発生は、いずれにも有意な差は認められなかった。
また、二尖弁狭窄症と三尖弁狭窄症で、1年後の弁血行動態(大動脈弁圧較差:13.2mmHg vs.13.5mmHg、絶対リスク差[RD]:0.3mmHg、95%CI:-0.9~0.3、p=0.33)や、中等度~重度の人工弁周囲逆流(3.4% vs.2.1%、1.3%、-0.6~3.2、p=0.14)にも有意差はみられなかった。さらに、院内死亡(0.6% vs.0.4%、p=0.22)や院内脳卒中(1.1% vs.0.9%、p=0.31)の発生にも差はなく、重篤な手技関連合併症は二尖弁狭窄症、三尖弁狭窄症ともまれだった。
著者は、「本研究は選択バイアスの可能性があり、二尖弁大動脈弁狭窄症に対し外科的治療を行う対照群を欠いていることから、手術リスクが低い二尖弁大動脈弁狭窄症に対するTAVRの有効性と安全性を適切に評価するには、今後、無作為化試験の実施が求められる」としている。
(医学ライター 菅野 守)