食事によるα-リノレン酸(ALA)の摂取量が多い集団は少ない集団に比べ、全死因死亡や心血管疾患(CVD)死、冠動脈疾患(CHD)死のリスクが有意に低いが、がんによる死亡リスクがわずかに高く、ALAの血中濃度が高いと全死因死亡とCHDによる死亡のリスクが低下することが、イラン・テヘラン医科大学のSina Naghshi氏らの検討で示された。研究の成果は、BMJ誌2021年10月14日号に掲載された。
ALA食事摂取量と死亡の関連を評価するメタ解析
研究グループは、ALAの食事摂取量やその組織バイオマーカーと、全死因死亡、CVD死、がん死との関連の評価を目的に、前向きコホート研究を系統的にレビューし、メタ解析を行った(イラン・アバダン医科大学の助成を受けた)。
2021年4月30日の時点で、医学データベース(PubMed、Scopus、ISI Web of Science、Google Scholar)に登録された文献を検索した。解析には、成人(年齢18歳以上)を対象とした前向きコホート研究で、ALAの食事摂取量または組織バイオマーカー(脂肪組織、血液)と、全死因死亡、CVD死、CHD死、がん死との関連の相対リスク推定値(ハザード比[HR]、オッズ比[OR]、95%信頼区間[CI])のデータを記載した論文が含まれた。
メタ解析では、食事によるALA摂取量が最も多い集団の最も少ない集団に対する要約相対リスクと95%CI値が算出された。また、用量反応解析で、ALA摂取量と死亡の用量反応的関連の評価が行われた。
全死因死亡やCVD死、CHD死のリスクが有意に低下
前向きコホート研究の41の論文(1991~2021年に出版、年齢幅18~98歳、各試験の参加者数の範囲162~52万1,120例、全参加者数119万7,564例)が、系統的レビューとメタ解析の対象となった。各試験の追跡期間は2~32年で、この間に19万8,113例が死亡し、このうち6万2,773例がCVD死、6万5,954例はがん死であった。
変量効果モデルによるメタ解析では、ALA摂取量が最も多い群(1日当たりの摂取量中央値:1.59g、IQR:1.26~2.25)は最も少ない群(0.73g、0.36~0.89)に比べ、全死因死亡(統合相対リスク:0.90、95%CI:0.83~0.97、I2=77.8%、15試験)のリスクが有意に低かった。絶対リスク差は-113(95%CI:-192~-34)であり、最高摂取量群では1万人年当たり113件の全死因死亡が回避されることが示された。
また、最高摂取量群は最低摂取量群に比べ、CVD死(統合相対リスク:0.92、95%CI:0.86~0.99、I2=48.2%、16試験)およびCHD死(0.89、0.81~0.97、I2=5.6%、9試験)のリスクも有意に低下したが、がん死(1.06、1.02~1.11、I2=3.8%、10試験)のリスクはわずかに増加した。
一方、線形用量反応解析では、ALA摂取量が1日当たり1g(キャノーラ油大さじ1杯またはクルミ0.5オンス相当)増加すると、全死因死亡(統合相対リスク:0.95、95%CI:0.91~0.99、I2=76.2%、12試験)とCVD死(0.95、0.91~0.98、I2=30.7%、14試験)のリスクがいずれも5%低下した。
ALA組織内濃度が最も高い群は最も低い群に比べ、全死因死亡のリスクが有意に低かった(統合相対リスク:0.95、95%CI:0.90~0.99、I2=8.2%、26試験)。また、ALA血中濃度の1標準偏差の増加ごとに、CHDによる死亡のリスクが有意に低下した(0.92、0.86~0.98、I2=37.1%、14試験)。
著者は、「メタ解析に含まれた試験の多くは欧米の研究であるため、これらの知見を全世界の人口に当てはめるには慎重を期すべきと考えられる。また、ALAの潜在的な健康効果をより包括的に評価し、ALAを多く含む特定の食品が、がんや他の原因による死亡とは異なる関連を持つかを評価するために、ALAとより広範な死因の関連について検討する研究を行う必要がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)