イングランドでは、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの全国的な接種プログラムの導入により、子宮頸がんおよび前がん病変とされるGrade3の子宮頸部上皮内腫瘍(CIN3)の発生が大幅に減少し、とくに12~13歳時に接種を受けた女性で顕著な抑制効果が認められ、1995年9月1日以降に出生した女性ではHPV関連子宮頸がんの根絶にほぼ成功した可能性があることが、英国・キングス・カレッジ・ロンドンのMilena Falcaro氏らの調査で明らかとなった。研究の成果は、Lancet誌2021年12月4日号で報告された。
イングランドの2価ワクチンの観察研究
研究グループは、イングランドの住民ベースのがん登録データを用いて、2価HPVワクチンを用いた予防接種プログラムが子宮頸がんおよびCIN3の発生に及ぼした、早期の影響の定量化を目的に観察研究を行った(Cancer Research UKの助成を受けた)。
イングランドでは、2008年9月1日、12~13歳の女児に2価HPVワクチン接種プログラムが導入され、2008~10年にかけて14~18歳の女子に対し、年齢差による遅れを取り戻すためのプログラムが提供された。
本研究では、年齢-時代-コホート(APC)ポワソンモデルの拡張版を用いて、HPVワクチン接種の対象とならなかったコホートとの比較で、ワクチン接種コホートにおける子宮頸がんの相対リスクが推定された。ワクチン接種コホートは、接種時の学年と全国的な接種の普及状況を考慮して、3つのコホート(ワクチン接種時の学年が12~13年生、10~11年生、8年生のコホートで、24.5歳時に最初のがんスクリーニングへの参加を勧められた女性)で解析が行われた。
2021年1月26日に、住民ベースのがん登録からデータが抽出され、イングランドに居住する20~64歳の女性の、2006年1月1日~2019年6月30日の期間における子宮頸がんおよびCIN3の診断について評価が行われた。また、交絡因子に対してさまざまな補正を行った3つのモデルを用いて解析が行われ、結果が比較された。
接種年齢12~13歳の25歳時の低下率:がん87%、CIN3 97%
調査期間中に2万7,946例が子宮頸がんと、31万8,058例がCIN3と診断された。ワクチン接種を受けた20~30歳未満の女性の総追跡期間1,370万年のデータが解析に含まれた。
ワクチン非接種コホートと比較した接種年齢別の子宮頸がん発生率の推定相対低下率は、16~18歳(12~13年生)のコホートが34%(95%信頼区間[CI]:25~41)、14~16歳(10~11年生)が62%(52~71)、12~13歳(8年生)は87%(72~94)であり、接種年齢が低いほど低下率が大きかった。
また、CIN3のリスク低下率も、接種年齢16~18歳のコホートが39%(95%CI:36~41)、同14~16歳が75%(72~77)、同12~13歳は97%(96~98)と、接種年齢が低いほど低下率が大きかった。これらの結果は、すべてのモデルでほぼ同様だった。
一方、2019年6月30日の時点で、イングランドのワクチン接種コホートにおける発生件数は、子宮頸がんが予測よりも448件(95%CI:339~556)少なく、CIN3は予測に比べ1万7,235件(1万5,919~1万8,552)減少していた。
著者は、「これらの結果は、2価HPVワクチンによる子宮頸がん予防に関する初めての直接的なエビデンスであり、英国のプログラム全体の効果を評価するには時期尚早であるが、HPVワクチン接種の利点に関する理解と認識を深めることに貢献するだろう」とまとめ、「12~13歳の女児への広範なHPVワクチン接種により、25歳(観察データの範囲)までに子宮頸がんと前がん病変がほぼ根絶されることが示された。HPVワクチン接種の対象となる女性には、より若い世代に利益をもたらし続けるために、何歳であっても(理想的には最初に接種を勧められた時に)接種を受けるよう推奨すべきである」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)