新型コロナウイルス感染症(COVID-19)へのワクチン接種について、アルファ変異株と比較してデルタ変異株のほうが感染減少が少なく、ワクチンの有効性は経時的に低下したことが示された。また、感染発端患者の診断時PCRサイクル閾値(Ct)値は、感染減少を部分的に説明するのみであることも明らかにされた。英国・オックスフォード大学のDavid W. Eyre氏らが、後ろ向き観察コホート研究の結果を報告した。SARS-CoV-2のデルタ(B.1.617.2)変異株の出現以前は、ワクチン接種によりウイルス量が減少し、感染したワクチン接種者からのSARS-CoV-2の伝播が抑制したとみなされていた。ワクチン接種により感染リスクはさらに低下しているが、デルタ変異株に感染したワクチン接種者と未接種者のウイルス量は同程度であることが判明し、ワクチン接種が感染をどの程度予防するのか疑問視されていた。NEJM誌オンライン版2022年1月5日号掲載の報告。
SARS-CoV-2感染患者約11万人とその接触者約15万人について解析
研究グループは、英国の接触者検査データを用い、SARS-CoV-2に感染した成人患者(発端患者)と、その接触者を対象に後ろ向き観察コホート研究を実施した。
多変量ポアソン回帰法により、ウイルス感染とワクチン接種状況(発端患者および接触者について)の関連を調べるとともに、この関連性がアルファ(B.1.1.7)変異株およびデルタ変異株で、また2回目のワクチン接種からの経過期間によってどう変化するのかを検討した。
発端患者10万8,498例と、その接触者で検査を受けた14万6,243例のうち、5万4,667例(37%)がPCR検査でSARS-CoV-2陽性であった。
ワクチン接種後の感染患者からの感染減少は、アルファ変異株と比べデルタ株で低下
ワクチン接種済みでアルファ変異株に感染した発端患者では、BNT162b2ワクチン(Pfizer/BioNTech製)またはChAdxOx1 nCoV-19(AZD1222)(AstraZeneca製)の2回接種は、いずれのワクチンでもワクチン未接種者と比較し、接触者のPCR陽性率の低下と関連していることが認められた(BNT162b2の補正後率比:0.32[95%信頼区間[CI]:0.21~0.48]、ChAdxOx1 nCoV-19の同0.48[0.30~0.78])。
ワクチン接種によるデルタ変異株の感染減少は、アルファ変異株と比較して小幅であった。その感染減少幅は、BNT162b2ワクチン2回接種後(未接種者と比較した補正後率比:0.50、95%CI:0.39~0.65)のほうが、ChAdxOx1ワクチン2回接種後(0.76、0.70~0.82)より大きかった。
ワクチンに関連した2つの変異株の感染率低下について、発端患者のCt値(ウイルス量の指標)の変化が占める割合は7~23%であった。デルタ変異株の感染減少は、ワクチン2回接種後に経時的に低下し、ChAdxOx1 nCoV-19ワクチン接種を受けた発端患者では12週までにワクチン未接種者と同等レベルとなり、BNT162b2ワクチン接種を受けた発端患者では大幅な減弱が認められた。接触者におけるワクチン予防効果は、ワクチン2回接種後3ヵ月間で同様に低下した。
(医学ライター 吉尾 幸恵)