妊娠中の女性に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンを接種しても、妊娠終了後の接種や非接種と比較して、母子における有害な周産期アウトカムのリスクの増加はほとんどみられないことが、カナダ・オタワ大学のDeshayne B. Fell氏らの検討で示された。研究の成果は、JAMA誌オンライン版2022年3月24日号に掲載された。
オンタリオ州の後ろ向きコホート研究
研究グループは、妊娠中のCOVID-19ワクチン接種の、周産期のアウトカムに及ぼす影響の評価を目的に、人口ベースの後ろ向きコホート研究を行った(カナダ公衆衛生庁の助成を受けた)。
解析には、カナダ・オンタリオ州のCOVID-19予防接種データベース(COVaxON)と連携させた出生レジストリ(Better Outcomes Registry & Network[BORN] Ontario)の2020年12月14日~2021年9月30日のデータが用いられた。
被験者は、妊娠中に少なくとも1回のCOVID-19ワクチン接種を受けた群、妊娠終了後に接種を開始した群、接種の記録がない群の3群に分けられた。
主要アウトカムは、母親では分娩後出血、絨毛膜羊膜炎、帝王切開による分娩(全体および緊急時)、新生児では新生児集中治療室(NICU)入室、分娩5分後の新生児Apgarスコア低値(7点未満)の発生とされた。
リスク増大なし、ほとんどがmRNAワクチンである点に留意
9万7,590人(平均年齢 31.9[SD 4.9]歳)の妊婦が解析に含まれた。2万2,660人(23%)が妊娠中に少なくとも1回のワクチン接種を受け、このうち63.6%は妊娠第3期(妊娠期間中央値213日[在胎週数30週])に1回目の接種を受けており、99.8%(BNT162b2[Pfizer-BioNTech製]79.9%、mRNA-1273[Moderna製]19.9%)がmRNAワクチンであった。
これら妊娠中接種群は、妊娠終了後接種群(4万4,815人)と比較して、5つの有害な周産期アウトカムについて、統計学的に有意なリスクの増加は認められなかった。
すなわち、分娩後出血の発生率は、妊娠中接種群が3.0%、妊娠終了後接種群も3.0%(補正後群間リスク差:-0.28/100人[95%信頼区間[CI]:-0.59~0.03]、補正後リスク比:0.91[95%CI:0.82~1.02])で、絨毛膜羊膜炎はいずれも0.5%(-0.04/100人[-0.17~0.09]、0.92[0.70~1.21])と両群に差はなく、帝王切開による分娩は30.8%および32.2%(-2.73/100人[-3.59~-1.88]、0.92[0.89~0.95])と、妊娠中接種群のほうが低かった。また、新生児の2つのアウトカムはいずれも妊娠中接種群でリスクが低く、NICU入室は11.0%および13.3%(-1.89/100人[-2.49~-1.30]、0.85[0.80~0.90])、分娩5分後Apgarスコア低値は1.8%および2.0%(-0.31/100人[-0.56~-0.06]、0.84[0.73~0.97])だった。
また、非接種群(3万115人)と比較した場合の、妊娠中接種群における有害な周産期アウトカムの発生のリスクは以下のとおりであり、妊娠終了後接種群との比較とほぼ同程度であった。
分娩後出血(3.0% vs.3.4%、補正後リスク差:-0.32/100人[95%CI:-0.64~-0.01]、補正後リスク比:0.90[0.81~1.00])、絨毛膜羊膜炎(0.5% vs.0.3%、0.07/100人[-0.04~0.19]、1.20[0.90~1.59])、帝王切開による分娩(30.8% vs.28.5%、-0.97/100人[-1.81~-0.14]、0.97[0.94~1.00])、NICU入室(11.0% vs.12.8%、-0.93/100人[-1.52~-0.35]、0.92[0.87~0.97])、分娩5分後Apgarスコア低値(1.8% vs.2.0%、-0.23/100人[-0.47~0.02]、0.88[0.77~1.01])。
著者は、「これらの結果を解釈する際は、妊娠中のワクチン接種の多くは妊娠第2~3期に接種されたmRNAワクチンである点に留意する必要がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)