新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のmRNAワクチン接種後に、稀ではあるが心筋炎または心膜炎のリスク増加が認められ、とくに18~25歳の男性で2回目接種後に最も高いことが、米国食品医薬品局(FDA)のHui-Lee Wong氏らによる後ろ向きコホート研究で示された。米国の医療保険請求データベースを用い、mRNA-1273(モデルナ製)とBNT162b2(ファイザー製)の接種後における心筋炎または心膜炎のリスクを定量的に直接比較した。これまで、いくつかの受動的サーベイランスシステムにより、とくに若年男性において、COVID-19 mRNAワクチン接種後の心筋炎または心膜炎のリスク増加が報告されていた。著者は、「今回の結果は、mRNA-1273とBNT162b2との間に統計学的に有意なリスク差があることを示していないが、差が存在する可能性は除外されるべきではない。また、ベネフィット-リスクプロファイルに従い、いずれかのmRNAワクチンの接種は引き続き支持される」とまとめている。Lancet誌2022年6月11日号掲載の報告。
大規模医療保険請求データベースを用いて心筋炎/心膜炎とワクチンとの関連を解析
研究グループは、米国の4つの医療保険請求データベース(Optum、HealthCore、Blue Health Intelligence、CVS Health)を用い、後ろ向きコホート研究を行った。対象は、COVID-19 mRNAワクチン(BNT162b2またはmRNA-1273)を1回以上接種し、初回接種時の年齢が18~64歳のすべての個人で、国際疾病分類(ICD)コードを用いて、ワクチン接種後1~7日に発症した心筋炎または心膜炎を特定した。
心筋炎または心膜炎と各ワクチンとの関連を評価するため、ワクチン接種後の心筋炎または心膜炎の発生率(観察値:O)と、ワクチン非接種時の心筋炎または心膜炎の発生率の代理として、同データベースの過去(ワクチンが提供される1年前の2019年)のコホートから推定された発生率(期待値:E)を比較した。また、多変量ポアソン回帰モデルを用い、ワクチンの製品別の発生率と、mRNA-1273とBNT162b2を比較した発生率比(IRR)を推定し、メタ解析によりデータベースごとの発生率とIRRを統合した。
18~25歳の男性で高リスクだが、製品別で心筋炎/心膜炎の発生に有意差なし
2020年12月18日~2021年12月25日の間に、18~64歳の1,514万8,369人がワクチン接種(BNT162b2が1,691万2,716回、mRNA-1273が1,063万1,554回)を受けた。
ワクチン接種後の心筋炎または心膜炎あるいはその両方が、計411例確認された。411例の背景(各データベースにおける割合)は、18~25歳が33~42%、男性が58~73%であった。
18~25歳の男性において、統合発生率は2回目接種後が最も高く、発生率(10万人日当たり)は、BNT162b2で1.71(95%信頼区間[CI]:1.31~2.23)、mRNA-1273で2.17(1.55~3.04)であった。
また、18~25歳の男性において、mRNA-1273のあらゆる接種回数後の心筋炎または心膜炎の発生率は、BNT162b2の同発生率と比較して有意差は認められなかった(統合補正後IRR:1.43、95%CI:0.88~2.34)。BNT162b2接種者と比較したmRNA-1273接種者の心筋炎または心膜炎の過剰リスクは、100万回接種当たり27.80(95%CI:-21.88~77.48)であった。
(医学ライター 吉尾 幸恵)