2022年5月~11月に、世界で7万8,000人以上のヒトサル痘ウイルス感染が報告されたが、主に男性と性行為を持つ男性で発生している。英国・ロンドン大学クイーンメアリー校のJohn P. Thornhill氏らは、今回、15ヵ国のシスジェンダーおよびトランスジェンダー女性と、出生時に女性性を割り当てられたノンバイナリーにおけるサル痘感染の疫学的および臨床的な特性を記述し、リスク因子の特定と理解の向上を目的とする症例集積研究を行った。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2022年11月17日号に掲載された。
136人のデータを解析、性行為による感染が多い
本研究では、サル痘ウイルス感染の診断件数が多い地域の研究者と連絡を取り、サル痘ウイルス感染が確定された女性およびノンバイナリーのデータを提供するよう依頼した。
参加施設は、匿名化された構造的症例報告スプレッドシートに感染した女性およびノンバイナリーの関心変数のデータを記述したほか、可能性のある曝露、人口統計学的因子、職業、早期の症状、HIVの感染状況、併存する性感染症などを中心に、疑われる感染経路についても尋ねられた。
2022年5月11日~10月4日までに15ヵ国(欧州、北米・南米、アフリカ、イスラエル)でサル痘ウイルスに感染した136人のデータが寄せられた。トランス女性が62人(46%)、シス女性が69人(51%)、ノンバイナリーが5人(4%)であった。ノンバイナリーは数が少ないため、シス女性と合わせて解析が行われた(シス女性/ノンバイナリー74人)。全体の年齢中央値は34歳(四分位範囲[IQR]:28~40、範囲:19~84)だった。
136人中121人(89%)が、男性との性行為を報告した。37人(27%)はHIV感染者で、トランス女性(62人中31人[50%])がシス女性/ノンバイナリー(74人中6人[8%])よりも高率であった。
性行為による感染が疑われたのは、トランス女性が55人(89%、残りは感染経路不明)、シス女性/ノンバイナリーは45人(61%)であった。性行為以外の感染経路は、シス女性/ノンバイナリーでのみ報告され、性行為以外の密接な接触が7人(9%)、家庭が7人(9%)、職場(医療従事者)が4人(5%)だった。
診断前誤診が23%、肛門性器の小水疱膿疱性発疹が多い
サル痘ウイルス感染の診断の前の誤診が136例中31人(23%)で認められ、トランス女性(62人中6人[10%])よりも、シス女性/ノンバイナリー(74人中25人[34%])で高率であった。
データが得られた集団における症状は、発疹が134人中124人(93%)に認められ、121人中105人(87%)は小水疱膿疱性と記述されていた。また、少なくとも1つの肛門性器病変が129人中95人(74%)にみられた。
病変数中央値は10個(IQR:5~24、範囲:1~200)であった。粘膜病変(膣、肛門、中咽頭、眼球)は119人中65人(55%)で発現した。膣および肛門の性行為は、これらの部位での病変の発生と関連していた。
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)法で検査した14の膣スワブ検体のすべてで、サル痘ウイルスDNAが検出された。
17人(13%)が入院した。入院理由は、病変部の細菌性重複感染が2人、肛門直腸の重度疼痛の管理が3人、嚥下痛が3人などであった。33人(24%)がテコビリマット(tecovirimat)による治療を受け、6人(4%)は曝露後にワクチン接種を受けた。死亡の報告はなかった。
著者は、「女性における診断の遅れや誤診を避けるために、特別な注意を払う必要がある」と指摘し、「トランス女性およびシス女性/ノンバイナリーでは、病変部位は性行為の種類とほぼ一致していた。臨床医は、性自認や性行為によって臨床症状が異なることに留意する必要がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)