胆道がんの術後補助療法において、経口フッ化ピリミジン系薬剤S-1(テガフール・ギメラシル・オテラシル カリウム)は、経過観察と比較して、全生存期間(OS)を延長し忍容性も良好であることが、栃木県立がんセンターの仲地 耕平氏ら日本臨床腫瘍研究グループの肝胆膵腫瘍グループ(JCOG-HBPOG)が実施した「ASCOT試験(JCOG1202試験)」で示された。研究の成果は、Lancet誌2023年1月21日号で報告された。
日本の38施設の非盲検無作為化第III相試験
ASCOT試験は、日本の38施設が参加した非盲検無作為化第III相試験であり、2013年9月~2018年6月の期間に患者の登録が行われた(国立がん研究センターと厚生労働省の助成を受けた)。
対象は、年齢20~80歳、切除標本で組織学的に肝外胆管がん、胆嚢がん、乳頭部がん、あるいは肝内胆管がんと確定され、局所残存腫瘍切除または顕微鏡的残存腫瘍切除が行われていない患者であった。
被験者は、術後に経過観察を行う群またはS-1を投与する群に、1対1の割合で無作為に割り付けられた。S-1は、体表面積により40、50または60mgを、1日2回、4週間経口投与後に2週休薬する6週を1サイクルとし、最大4サイクルが投与された。
主要評価項目はOSとされ、無作為割り付けされた全患者を対象とするintention-to-treat解析が行われた。
アジア人の標準治療となる可能性
440例が登録され、経過観察群に222例(年齢中央値70歳[四分位範囲[IQR]:40~80]、女性32%)、S-1群に218例(68歳[33~80]、26%)が割り付けられた。データカットオフ日は2021年6月23日で、追跡期間中央値は45.4ヵ月だった。試験期間中に経過観察群の100例(45%)と、S-1群の79例(36%)が死亡した。
OSは、経過観察群よりもS-1群のほうが長かった(死亡のハザード比[HR]:0.69、95%信頼区間[CI]:0.51~0.94、層別log-rank検定の片側p=0.0080)。3年OS率は、経過観察群が67.6%(95%CI:61.0~73.3)、S-1群は77.1%(70.9~82.1)であった。また、OS中央値は、経過観察群が6.1年(95%CI:4.2~評価不能[NE])、S-1は評価不能(5.2~NE)だった。
経過観察群の115例(52%)、S-1群の96例(44%)で再発がみられた(再発または死亡のHR:0.80、95%CI:0.61~1.04、log-rank検定の両側p=0.088)。3年無再発生存率は、経過観察群が50.9%(95%CI:44.1~57.2)、S-1群は62.4%(55.6~68.4)であり、無再発生存期間中央値はそれぞれ3.5年(95%CI:2.0~NE)、5.3年(4.1~6.1)だった。
S-1群(207例)で頻度の高い(≧30%)全Gradeの有害事象として、白血球数減少、好中球数減少、貧血、血小板数減少、低アルブミン血症、アルカリホスファターゼ上昇、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ上昇、アラニン・アミノトランスフェラーゼ上昇などが認められた。また、S-1群で頻度の高いGrade3/4の有害事象は、好中球数減少(29例[14%])と胆道感染症(15例[7%])であった。
著者は、「確定的な結論を得るには、長期間の臨床的有用性が求められるが、S-1はアジア人の胆道がん切除例における標準治療と考えられる」としている。
(医学ライター 菅野 守)