乳房温存手術後の早期乳がんに対する標的体積内同時ブースト(SIB)法を用いた強度変調放射線治療(IMRT)および画像誘導放射線治療(IGRT)では、48Gy SIBは5年後の同側乳房の腫瘍再発(IBTR)率が、逐次照射を行う標準的放射線治療に対し非劣性であり、乳房硬結の発生率も同程度であるが、53Gy SIBではIBTR、硬結とも標準的照射に比べ高率にみられることが、英国・ケンブリッジ大学のCharlotte E. Coles氏らが実施した「IMPORT HIGH試験」で示された。研究の詳細は、Lancet誌オンライン版2023年6月8日号で報告された。
英国の第III相非劣性試験
IMPORT HIGH試験は、乳房温存手術後の早期乳がんに対するSIB法を用いたIMRTおよびIGRTが、優れた局所コントロールを保持しつつ治療期間を短縮し、毒性を同等かそれ以下に軽減するかの検証を目的とする第III相非盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2009年3月~2015年9月の期間に、英国の39の放射線治療センターと37の関連施設で患者の募集が行われた(Cancer Research UKの助成を受けた)。
年齢18歳以上、pT1-3、pN0-3a、M0の浸潤がんで、乳房温存手術を受け、局所再発リスクが高い女性が、次の3つの放射線治療に1対1対1の割合で無作為に割り付けられた。
(1)対照群:全乳房への40Gy 15分割の照射+腫瘍床への光子線を用いた16Gy 8分割の逐次ブースト照射。
(2)試験群1:全乳房への36Gy 15分割の照射、40Gy 15分割の部分照射、腫瘍床への光子線を用いた48Gy 15分割の同時ブースト照射。
(3)試験群2:全乳房への36Gy 15分割の照射、40Gy 15分割の部分照射、腫瘍床への光子線を用いた53Gy 15分割の同時ブースト照射。
主要評価項目は、intention to treat集団におけるIBTR(浸潤がんまたは非浸潤性乳管がんの発生)であった。対照群の5年IBTR発生率を5%と仮定し、試験群の絶対的過剰が3%以下(両側95%信頼区間[CI]の上限値)の場合に非劣性と判定することとした。
試験群2は、硬結の5年発生率が有意に高い
2,617例が登録され、対照群に871例(年齢中央値49.4歳)、試験群1に874例(48.9歳)、試験群2に872例(49.2歳)が割り付けられた。ベースラインの全体の腫瘍床の臨床的標的体積の中央値は12.8cm
3だった。
フォローアップ期間中央値74ヵ月の時点で、IBTRイベントは76例で発生し、対照群が20例、試験群1が21例、試験群2は35例だった。5年IBTR発生率は、対照群が1.9%(95%CI:1.2~3.1)、試験群1が2.0%(1.2~3.2)、試験群2は3.2%(2.2~4.7)であった。
対照群と比較したIBTR発生率の推定絶対差は、試験群1が0.1%(95%CI:-0.8~1.7)、試験群2は1.4%(0.03~3.8)であり、試験群1(同時ブースト照射48Gy 15分割)で対照群に対する非劣性が示された。
また、乳房の硬結の5年発生率は、対照群が11.5%であったのに対し、試験群1は10.6%(対照群との比較のp=0.40)、試験群2は15.5%(対照群との比較のp=0.015)であった。
著者は、「再発率は予想よりはるかに低く、全群とも晩期有害作用の発生率も低かった」とまとめ、「本試験は、主要評価項目のイベント発生率がきわめて低かった場合の非劣性の評価の難しさを浮き彫りにしている。SIBは来院回数が少なく安全な治療法であり、53Gy SIBへの線量の増量に利点はないと考えられる」と指摘している。なお、フォローアップは継続中であり、10年後の結果の報告が予定されているという。
(医学ライター 菅野 守)