胸腺摘出を受けた患者は摘出を受けなかった対照群よりも、全死因死亡およびがんリスクが高いことが、米国・マサチューセッツ総合病院のKameron A. Kooshesh氏らによる検討で示された。また、術前感染症、がん、自己免疫疾患を有する患者を除外した解析では、胸腺摘出は自己免疫疾患のリスクを増大すると思われる関連性もみられたという。成人における胸腺の機能は明らかになっていないが、さまざまな外科手術でルーチンに摘出が行われている。研究グループは、成人の胸腺は、免疫機能と全般的な健康の維持に必要であるとの仮説を立て、疫学的・臨床的・免疫学的解析評価で検証した。NEJM誌2023年8月3日号掲載の報告。
胸腺摘出vs.非摘出の死亡・がん・自己免疫疾患のリスクを評価
研究グループは、胸腺摘出術を受けた成人患者と人口統計学的にマッチさせた胸腺摘出術を受けずに類似の心臓胸部手術を受けた成人患者を比較し、死亡・がん・自己免疫疾患のリスクを評価した。患者サブグループで、T細胞産生量と血漿中サイトカイン濃度も比較した。
Mass General Brigham(MGB)Research Patient Data Registryを用いて、1993年1月1日~2020年3月1日にマサチューセッツ総合病院で胸腺摘出術を受けた全成人患者を特定。術後90日以内に死亡した患者、また術後5年以内に非腹腔鏡下心臓手術を受けた患者は除外した(胸腺摘出群)。同様に2000年1月1日~2019年12月31日に非腹腔鏡下で心臓手術を受けた胸腺摘出術歴のない全成人患者を特定。術後90日以内に死亡した患者、術前心不全を呈した患者、術後5年以内に2度目の心臓手術を受けた患者は除外した(対照群)。
データは2022年3月1日まで収集された。
死亡の相対リスク2.9倍、がん相対リスク2.0倍
レジストリの探索で、胸腺摘出群1,470例、対照群1万6,679例が特定され、除外後にそれぞれ1,420例と6,021例が試験に包含された。このうち主要コホートは、対照とのマッチが少なくとも1つ以上あった胸腺摘出群1,146例(81%)と、その年齢・人種・性別でマッチさせた対照群1,146例で構成された。
術後5年時点で、全死因死亡率は胸腺摘出群(8.1%)が対照群(2.8%)より2倍超高く(相対リスク:2.9[95%信頼区間[CI]:1.7~4.8]、p<0.001)、がんリスクも同様に胸腺摘出群(7.4%)が対照群(3.7%)より高かった(2.0[1.3~3.2])。自己免疫疾患リスクは、主要コホート全体では実質的な群間差は認められなかったが(1.1[0.8~1.4])、術前感染症、がん、自己免疫疾患を有する患者を解析から除外すると、群間差が認められた(12.3% vs.7.9%、相対リスク:1.5[95%CI:1.02~2.2])。
追跡期間5年超の全患者(マッチした対象の有無を問わず)の解析では、全死因死亡率は、胸腺摘出群(9.0%)が米国一般集団(5.2%)よりも高く、がん死亡率も同様であった(2.3% vs.1.5%)。
T細胞産生量と血漿中サイトカイン濃度が測定された患者のサブグループ(胸腺摘出群22例、対照群19例、平均追跡期間14.2術後年[範囲:8~26])では、胸腺摘出群のほうが対照群よりもCD4+、CD8+リンパ球の新生量が少なかった。signal joint T-cell receptor excision circle(sjTREC)解析で測定した平均CD4+リンパ球数は、胸腺摘出群1,451/μg DNA vs.対照群526/μg DNAであり(p=0.009)、同平均CD8+リンパ球数はそれぞれ1,466/μg DNA vs.447/μg DNAであった(p<0.001)。血中の炎症性サイトカイン濃度も胸腺摘出群で高かった。
(ケアネット)