プライマリケアにおける男性の下部尿路症状(lower urinary tract symptoms:LUTS)の治療で、標準化およびマニュアル化された情報冊子を用いたケアによる介入は通常ケアと比較して、症状を持続的に改善し、有害事象の発現は同程度であることが、英国・インペリアル・カレッジ・ハマースミス病院のMarcus J. Drake氏らが実施した「TRIUMPH研究」で明らかとなった。研究の成果は、BMJ誌2023年11月15日号に掲載された。
イングランドのクラスター無作為化対照比較試験
TRIUMPH試験は、イングランドの国民保健サービス(NHS)の一般診療所30施設が参加したクラスター無作為化対照比較試験であり、2018年6月~2019年8月の期間に患者を募集した(英国国立健康研究所[NIHR]の医療技術評価プログラムなどの助成を受けた)。
対象は、年齢18歳以上の男性で、過去5年以内にLUTSでプライマリケア施設を受診し、最近になって、不快感を伴うLUTSを1回以上経験した患者であった。
参加施設を、介入群または通常ケア群に無作為に割り付けた。介入群には、患者と専門家の意見を取り入れて作成した標準化された情報冊子を用いて、男性のLUTSに対する保存的介入と生活習慣への介入のガイダンスを提供した。
泌尿器症状の評価を行った後、看護師らが12週間にわたって患者と連絡を取り、マニュアルの指定項目のアドヒアランスの保持を支援した。
主要アウトカムは、12ヵ月後の患者報告による国際前立腺症状スコア(IPSS、0~7点:軽度、8~19点:中等度、20~35点:重度)に基づくLUTSとし、通常ケアに比べ2.0点の低下(ベースラインのIPSSが20点未満の場合の臨床的に意義のある最小差を反映した値)を目標とした。
QOLや失禁も改善、女性患者向けの開発の可能性も
30施設(1,077例)のうち、17施設を介入群(524例、平均年齢68.9[SD 9.3]歳、白人98.3%)、13施設を通常ケア群(553例、68.4[9.2]歳、98.6%)に割り付けた。
12ヵ月後の時点で、両群ともLUTSのいくつかの症状の改善がみられたが、補正後のIPSSの改善効果は介入群で有意に良好であった(IPSS:介入群11.6点vs.通常ケア群13.9点、補正後群間差:-1.81点、95%信頼区間[CI]:-2.66~-0.95、p<0.001)。事前に規定した改善の目標値である-2.0点には届かなかった。
また、12ヵ月時のLUTS特異的な生活の質(QOL)(IPSS quality of life score:介入群2.9点vs.通常ケア群3.3点、補正後群間差:-0.34点、95%CI:-0.50~-0.18、p<0.001)、失禁(ICIQ-UI-SF score:3.7点vs.4.5点、-0.74点、-1.15~-0.33、p<0.001)、LUTSの認知と情緒的な感覚(B-IPQ score:33.8点vs.38.4点、-4.78点、-6.31~-3.25、p<0.001)も、介入群で優れた。
一方、泌尿器科への紹介の割合(介入群7.3%vs.通常ケア群7.9%)および有害事象の発生数(7件vs.8件)は、両群で同程度だった。
著者は、「今後の研究では、(1)TRIUMPH研究の介入を総合診療の基盤となる施設に統合すること、(2)訓練教材や翻訳、標準化された冊子の入手を含め、識字能力の低い患者や英語を母国語としない患者向けにこの介入を適応させることが求められる」とし、「この方法で管理できる症状の多くは女性も経験するものであることから、女性患者のLUTSを管理するための、同様に標準化およびマニュアル化された方法を開発する可能性が高まっている」と指摘している。
(医学ライター 菅野 守)