ivabradineによる心拍低下療法の心予後改善は?:BEAUTIFUL試験

提供元:ケアネット

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公開日:2008/09/18

 

 If電流阻害薬ivabradineは、安定型冠動脈疾患および左室収縮機能障害患者の心臓の予後を改善しないが、心拍数が≧70拍/分の患者では冠動脈疾患の発症を低下させることが、大規模な無作為化試験(BEAUTIFUL試験)で明らかとなった。安定型冠動脈疾患、左室収縮機能障害はいずれもイベント発生率が高く、安静時の高心拍数は冠動脈リスク因子に影響を及ぼす可能性がある。ivabradineは洞房結節のIf電流を阻害することで心拍を低下させるが、他の心機能には影響を及ぼさないという。イギリス・王立Brompton病院のKim Fox氏が、Lancet誌2008年9月6日号(オンライン版2008年8月29日号)で報告した。

33ヵ国781施設が参加した国際的な無作為化試験

 BEAUTIFUL(morBidity-mortality EvAlUaTion of the If inhibitor ivabradine in patients with coronary disease and left-ventricULar dysfunction)試験の研究グループは、ivabradineによる心拍低下療法が安定型冠動脈疾患および左室収縮機能障害患者の心血管疾患による死亡率および罹患率を改善するか検討を行った。本試験は、33ヵ国781施設が参加した二重盲検プラセボ対照無作為化試験であり、2004年12月~2006年12月に1万2,473例をスクリーニングし、冠動脈疾患を有し左室駆出率<40%の1万917例を登録した。

 ivabradine群(5mg×2回/日、2週間後に心拍数≧60拍/分の場合は7.5mg×2回/日に増量、<50拍/分となった時点で5mg×2回/日に減量)に5,479例が、プラセボ群には5,438例が無作為に割り付けられた。主要評価項目は、心血管死、急性心筋梗塞による入院、心不全の新たな発症あるいは増悪による入院の複合エンドポイントとした。

複合エンドポイントに変化なし

 ベースラインにおける平均心拍数は71.6(SD 9.9)拍/分、フォローアップ期間中央値は19ヵ月であった。プラセボ群で補正した12ヵ月後のivabradine群の心拍数は6(SD 0.2)拍/分低下した。患者の87%がβ遮断薬を併用していたが、安全性にかかわる事象は認めなかった。

 ivabradineは複合エンドポイントに影響を及ぼさなかった(ハザード比:1.00、95%信頼区間:0.91~1.1、p=0.94)。重篤な有害事象はivabradine群の22.5%(1,233例)、プラセボ群の22.8%(1,239例)に認められた(p=0.70)。

事前に規定された心拍数≧70拍/分の患者においても、ivabradine治療は複合エンドポイントに影響しなかった(ハザード比:0.91、95%信頼区間:0.81~1.04、p=0.17)が、副次評価項目である致死的あるいは非致死的な心筋梗塞による入院(ハザード比:0.64、95%信頼区間:0.49~0.84、p=0.001)および冠動脈血行再建術の施行(ハザード比:0.70、95%信頼区間:0.52~0.93、p=0.016)を有意に低下させた。

 著者は、「ivabradineによる心拍低下療法は安定型冠動脈疾患および左室収縮機能障害患者の心予後を改善しなかったが、心拍数≧70拍/分の患者では冠動脈疾患の発症を低下させる可能性がある」と結論し、複合エンドポイントに変化がみられなかった原因について「基礎疾患ごとに必要とされる心拍数の低下の程度が異なる可能性がある。心拍数は、心筋梗塞や狭心症などそれが直接的に影響する疾患よりも、心不全など生理的反応に影響を及ぼす疾患でより低下する可能性がある」と考察している。

(菅野守:医学ライター)