補体因子C5に対する完全ヒト型IgG4P抗体であるpozelimabの皮下投与は、補体の過剰活性化を阻害し、CD55欠損症(CHAPLE症候群)の臨床症状および検査所見を消失させたことが、トルコ・マルマラ大学のAhmet Ozen氏らによる第II相および第III相多施設共同非盲検単群ヒストリカル対照試験の結果で示された。CD55欠損症は、CHAPLE(CD55 deficiency with hyperactivation of complement, angiopathic thrombosis, and protein-losing enteropathy)症候群とも呼ばれ、補体の過剰な活性化による腸管のリンパ管障害、リンパ管拡張症および蛋白漏出性胃腸症を特徴とするきわめてまれな生命を脅かす遺伝性疾患である。この希少遺伝性疾患であるCHAPLE症候群に対して、pozelimabは現時点での最初で唯一の治療薬として見いだされ、有効性と安全性の評価が行われた。著者は、「既知の原因が除外された蛋白漏出性胃腸症の患者では、CD55欠損症の検査を考慮し、CHAPLE症候群と診断された場合は早期にpozelimabによる治療を検討すべきである」とまとめている。Lancet誌オンライン版2024年1月23日号掲載の報告。
タイ、トルコ、米国の3施設で10例を登録
研究グループは、タイ、トルコおよび米国の3施設において、CHAPLE症候群と臨床診断され、遺伝子検査で同定され末梢血細胞のCD55フローサイトメトリーまたはウェスタンブロット法で確認された
CD55機能喪失変異を有する1歳以上の患者を登録した。
pozelimabは、負荷用量として30mg/kgを1回静脈内投与し、その後は週1回、体重が40kg未満の患者には200mg/mL×1、40kg以上の患者には200mg/mL×2を皮下投与した。
主要エンドポイントは、24週時において、血清アルブミンが正常化し(12~24週に測定値の70%以上が3.5g/dL以上かつ2.5g/dL未満であったことがない、またはアルブミン投与がないことと定義)、次の4つの臨床症状が改善または悪化しなかった患者の割合とした。
4つの臨床症状とは、問題となる腹痛の頻度、排便の頻度、顔面浮腫の重症度、末梢浮腫の重症度で、顔面および抹消浮腫の重症度は、医師による評価スコア(5点満点、ベースラインで3点以上の場合に測定可能)が2点以上減少を改善、2点以上増加を悪化、などと定義した。
2020年1月27日~2021年5月12日に11例が募集され、そのうち10例を登録し解析集団に組み込んだ。
pozelimab治療後、10例全例が主要評価項目を達成
有効性の解析は、48週時の評価を完了し、少なくとも52週間の治療を受けた患者を対象とした。また、安全性の解析は、さらに90日間の追跡調査と、少なくとも72週間の治療を受けた患者について行った。
患者は主に小児(年齢中央値8.5歳)で、トルコ、シリア、タイ、ボリビアの出身であり、ベースラインにおいて、年齢に対する体重および身長が著しく低かった。また、ベースラインのアルブミン値は平均2.2g/dLで、現地の検査基準範囲よりかなり低値であった。
pozelimab治療後、10例全例が血清アルブミンの正常化を認め、臨床症状の悪化はなく改善した。また、総補体活性は完全に阻害された。
有害事象は9例で発現した。重篤な有害事象は2例(嘔吐および下痢が1例、外傷性四肢骨折1例)に認められ、うち嘔吐および下痢の1例はpozelimabに関連すると考えられた。
(医学ライター 吉尾 幸恵)