認知症がなく、せん妄のエピソードを少なくとも1回経験している65歳以上の入院患者が初発の認知症の診断を受けるリスクは、せん妄のない患者のほぼ3倍に達し、せん妄のエピソードが1回増えるごとにリスクが20%増加することが、オーストラリア・クイーンズランド大学のEmily H. Gordon氏らの調査で示された。研究の成果は、BMJ誌2024年3月27日号で報告された。
ニューサウスウェールズ州の後ろ向きコホート研究
研究グループは、認知症のない高齢患者におけるせん妄と認知症発症との関連を評価する目的で、後ろ向きコホート研究を行った(オーストラリア国立保健医療研究評議会[NHMRC]の助成を受けた)。
2001年7月~2020年3月に、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州の公立・私立病院に入院した65歳以上の患者のデータを収集した。ベースラインで認知症の患者は除外。個人的特性と臨床的特性をマッチングすることで、せん妄ありとなしの患者の組み合わせを決定し、5年以上追跡した。
主要アウトカムは、せん妄と死亡、およびせん妄と認知症発症との関連とし、せん妄とアウトカムの用量反応関係を定量化した。
せん妄による認知症リスクは男性のほうが高い
マッチングを行った5万5,211組(11万422例、平均年齢83.4[SD 6.5]歳、男性48%)を解析の対象とした。63ヵ月(5.25年)の追跡期間中に、58%(6万3,929例)が死亡し、17%(1万9,117例)が新たに認知症と診断された。
せん妄のない患者と比較して、せん妄を有する患者は、死亡リスクが高く(ハザード比[HR]:1.39、95%信頼区間[CI]:1.37~1.41)、初発の認知症のリスクも顕著に高かった(部分分布のHR:3.00、95%CI:2.91~3.10)。
また、せん妄と認知症との関連は、女性よりも男性で強力であった(部分分布のHR:男性3.17、女性2.88、p=0.004)。
せん妄の予防、治療で、認知症の疾病負担軽減の可能性
せん妄のエピソードが1回増えるごとに、死亡のリスクが10%増加し(HR:1.10、95%CI:1.09~1.12)、認知症のリスクは20%増加した(部分分布のHR:1.20、95%CI:1.18~1.23)。
著者は、「これらのデータは、せん妄が認知症の原因となり得ることを示している」と述べ、「認知症の潜在的な修正可能なリスク因子として、せん妄の臨床的な意義は大きい。せん妄の予防と治療は、認知症の世界的な疾病負担を軽減する可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)