高リスクの転移のない乳がんの術後補助療法において、アスピリンの連日投与はプラセボと比較して、乳がんの再発リスクや生存率を改善しないことが、米国・ダナファーバーがん研究所のWendy Y. Chen氏らが実施した「Alliance A011502試験」で示された。研究の詳細は、JAMA誌オンライン版2024年4月29日号で報告された。
北米534施設の無作為化プラセボ対照第III相試験
Alliance A011502試験は、アスピリンが乳がん生存者における浸潤がんのリスクを低減するかの検証を目的とする二重盲検無作為化プラセボ対照第III相試験であり、2017年1月~2020年12月に米国とカナダの534施設で参加者を登録した(米国国防総省乳がん研究プログラムなどの助成を受けた)。
対象は、年齢18~69歳、標準治療を受けたERBB2陰性乳がんで、局所療法と化学療法を終了しており、内分泌療法を継続している可能性のある患者であった。被験者を、アスピリン300mgを5年間、1日1回連日投与する群、またはプラセボ群に無作為化に割り付けた。
主要評価項目は無浸潤疾患生存期間(iDFS)とし、無作為化の時点から遠隔再発、局所領域再発、同側または対側の乳がんの発生、2次がん(乳房以外の浸潤がん)、全死因死亡のいずれかが発生するまでの期間と定義した。
iDFSイベントに有意差はないもののアスピリン群で多い
3,020例を登録した時点で、初回の中間解析においてプラセボ群と比較したアスピリン群のiDFSのハザード比(HR)は1.27(zスコア=-1.64)と、事前に規定された無効の境界値(HR:1.03[zスコア<-0.192])を超えていたため、データ・安全性監視委 員会により試験の無効中止が勧告された。
アスピリン群が1,510例、プラセボ群も1,510例で、全体の年齢中央値は53歳、男性が16例(0.5%)含まれた。
追跡期間中央値33.8ヵ月(範囲:0.1~72.6)の時点で、iDFSイベントはアスピリン群が141件、プラセボ群は112件で発生した(HR:1.27、95%信頼区間[CI]:0.99~1.63、p=0.06)。iDFSイベントのうち、対側乳がんを除き、死亡、浸潤性疾患(遠隔、局所領域)、新規の原発性イベントはアスピリン群で多かったが有意差は認めなかった。
乳がんアウトカムの改善を目的に常用を推奨すべきではない
死亡は、プラセボ群の52例に比べアスピリン群は63例と多かったが、全生存率には有意な差はなかった(HR:1.19、95%CI:0.82~1.72、p=0.36)。81例(70.4%)は乳がんによる死亡だった(アスピリン群46例、プラセボ群35例)。
Grade3以上の有害事象は275件発生し、アスピリン群が130件(9.3%)、プラセボ群は145件(10.2%)であった。このうちGrade4以上は35件で、それぞれ15件(1.1%)および20件(1.4%)だった。アスピリン群では、Grade4の血液毒性を1件(血小板減少)、Grade5の心イベントを2件(心筋梗塞、心停止)、Grade4の血管の有害事象を1件(血栓塞栓イベント)で認めたが、Grade4以上の消化器毒性は発現しなかった。
著者は、「米国では、推定2,900万人がアスピリンを毎日服用しており、その半数は心血管疾患を有していない可能性がある。早期乳がんの病歴がある患者には、乳がんのアウトカムの改善を目的にアスピリンの常用を推奨すべきではない」としている。
(医学ライター 菅野 守)