冠動脈周囲脂肪減衰指数(FAI)は、とくに閉塞性冠動脈疾患(CAD)を持たない患者において、現在の臨床的リスク層別化や冠動脈コンピューター断層血管造影(CCTA)の解釈を超えた炎症リスクを捉えており、この情報を予後アルゴリズムに統合した人工知能(AI)支援リスク予測アルゴリズム(AI-Risk)とAI-Risk分類システムは、従来のリスク因子に基づくリスク評価の代替法となる可能性があることが、英国・オックスフォード大学のKenneth Chan氏らORFAN Consortiumが実施した「ORFAN試験」で示された。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2024年5月29日号に掲載された。
英国8病院の縦断コホート研究
ORFAN試験は、英国の8つの病院で実施した縦断コホート研究であり、CCTAを受けた患者4万91例(コホートA:年齢中央値59歳[四分位範囲[IQR]:50~70]、女性46.7%)を対象とし、主要有害心イベント(MACE:心筋梗塞、新規発症心不全、心臓死)について追跡期間中央値2.7年(IQR:1.4~5.3)にわたる調査を行った(英国心臓財団[BHF]などの助成を受けた)。
追跡期間が最も長かった2施設(期間中央値7.7年[IQR:6.4~9.1])の患者3,393例(コホートB:年齢中央値62歳[IQR:50~73]、女性43.6%)において、閉塞性CADの有無別にFAIスコアの予後予測能を評価した。
次いで、同じ集団でFAIスコア、冠動脈プラーク指標、臨床的リスク因子を統合したAI強化による心臓リスク予測アルゴリズムであるAI-Riskの評価を行った。
閉塞性CAD患者は18.9%のみ、心臓死、MACEとも予測能が向上
中央値2.7年の追跡期間中に、コホートAの4万91例のうち、追加の検査または介入を要した閉塞性CADは7,558例(18.9%)のみで、残りの3万2,533例(81.1%)は閉塞性CADのない患者であった。全体の心臓死数は1,754件で、このうち閉塞性CADのない患者では1,118件(63.7%)、また全体のMACE数は4,307件で、このうち閉塞性CADのない患者では2,857件(66.3%)発生した。
どの血管であれ、炎症を起こした冠動脈が1本あれば、FAIスコアの良好な予後予測能が確証された。閉塞性CADの有無にかかわらず、FAIスコアが75パーセンタイル(第3四分位数)以上の血管数が増加すると、3本の冠動脈すべてが25パーセンタイル(第1四分位数)未満の患者と比較して、心臓死(ハザード比[HR]:29.8、95%信頼区間[CI]:13.9~63.9、p<0.001)およびMACE(12.6、8.5~18.6、p<0.001)の双方のリスクが同様に上昇した。
AI-Risk分類は、心臓死、MACEの発生と正の相関
AI-Risk分類システムは、心臓死(低および中リスク例と比較した超高リスク例のHR:6.75[95%CI:5.17~8.82]、p<0.001、低および中リスク例と比較した高リスク例のHR:2.47[1.77~3.45]、p<0.001)およびMACE(4.68[3.93~5.57]、p<0.001、2.33[1.89~2.87]、p<0.001)の発生と正の相関を示した。また、閉塞性CADの有無を問わず、同様の有意な結果を認めた。
著者は、「この結果は、閉塞性CADがない患者のリスク評価とその管理における、FAIスコアとAI支援リスクアルゴリズムの導入を支持し、実臨床を最適化するためのツールとしてのこれらの活用の可能性を示唆するものである」としている。
(医学ライター 菅野 守)