血管周囲の脂肪減衰指数(FAI)は、冠動脈の炎症を非侵襲的に検出する新たな画像バイオマーカーである。英国・オックスフォード大学のEvangelos K. Oikonomou氏らは、CRISP CT試験のアウトカムデータの事後解析を行い、血管周囲FAIは、冠動脈炎を定量的に測定することにより、冠動脈CT血管造影(CTA)における現行の最高水準の評価に加えて、心臓リスクの予測や再層別化の質の向上をもたらすことを示した。研究の成果は、Lancet誌オンライン版2018年8月28日号に掲載された。冠動脈の炎症は、隣接する血管周囲の脂肪細胞における脂肪生成を阻害する。血管周囲FAIは、冠動脈CTA画像上で、血管周囲の脂肪減衰の変化を空間的にマッピングすることで冠動脈炎を捉えるが、その臨床アウトカムの予測能は不明であった。
解析コホートと検証コホートで予後予測能を解析
研究グループは、CRISP-CT試験において、2つの独立したコホートで前向きに収集されたアウトカムデータを用いて事後解析を行った(英国心臓財団[BHF]などの助成による)。
エルランゲン大学病院(ドイツ)で冠動脈CTAを受けた患者を解析コホート、クリーブランドクリニック(米国)で冠動脈CTAを受けた患者を検証コホートとした。3つの主冠動脈(右冠動脈近位部、左前下行枝、左回旋枝)において、血管周囲の脂肪減衰をマッピングした。
Cox回帰モデル(年齢、性別、心血管リスク因子、管電圧、修正Duke冠動脈疾患指標、冠動脈CTAによる高リスクプラーク特性の数で補正)を用い、全死因死亡および心臓死に関して、予後予測における血管周囲脂肪減衰マッピングの意義を評価した。
心臓死の1次、2次予防に有用となる可能性
2005~09年の期間に、解析コホートの1,872例(年齢中央値:62歳、範囲:17~89歳)が冠動脈CTAを受け、2008~16年の期間に、検証コホートの2,040例(53歳、19~87歳)が冠動脈CTAを受けた。フォローアップ期間中央値は、解析コホートが72ヵ月(51~109ヵ月)、検証コホートは54ヵ月(4~105ヵ月)だった。
両コホートとも、右冠動脈近位部および左前下行枝における血管周囲FAI高値は全死因死亡および心臓死を予測し、互いに強い相関を示した。一方、左回旋枝では、このような関連は認めなかった。そこで、統計学的な共線性の観点から、右冠動脈で測定した血管周囲FAIを、冠動脈全体の炎症の代替バイオマーカーとして使用した。
なお、右冠動脈の血管周囲FAIの、全死因死亡の予測における解析コホートのハザード比(HR)は1.49(95%信頼区間[CI]:1.20~1.85、p=0.0003)、検証コホートのHRは1.84(1.45~2.33、p<0.0001)であり、心臓死の予測における解析コホートのHRは2.15(1.33~3.48、p=0.0017)、検証コホートのHRは2.06(1.50~2.83、p<0.0001)であった。
解析コホートにおける血管周囲FAIの至適カットオフ値(これを上回ると心臓死が急増)は、-70.1HU以上とした(全死因死亡のHR:2.55、95%CI:1.65~3.92、p<0.0001、心臓死のHR:9.04、3.35~24.40、p<0.0001)。このカットオフ値は、検証コホートで確定された(全死因死亡のHR:3.69、2.26~6.02、p<0.0001、心臓死のHR:5.62、2.90~10.88、p<0.0001)。血管周囲FAIは、両コホートにおいてリスクの判別能を改善し、全死因死亡と心臓死に関する重要な再分類をもたらした。
著者は、「血管周囲FAI高値(カットオフ値:≧-70.1HU)は心臓死増加の指標であり、それゆえ早期の標的として1次予防に役立ち、至適治療にもかかわらず発症した冠動脈アテローム性硬化の不安定プラークの同定が可能であるため、2次予防にも有用となる可能性がある」としている。
(医学ライター 菅野 守)