ドナー心臓の低温酸素化灌流で心臓移植は改善するか/Lancet

提供元:ケアネット

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公開日:2024/08/30

 

 心臓移植において、ドナー心臓の持続的低温酸素化機械灌流(hypothermic oxygenated machine perfusion:HOPE)は単純冷却保存(static cold storage:SCS)と比較して、主要エンドポイントに有意差はなかったものの、1次エンドポイントのイベントリスクを44%減少させ、移植後合併症が減少するとともに原発性移植片機能不全(primary graft dysfunction:PGD)の低減に有益であることが示唆された。ベルギー・University Hospitals LeuvenのFilip Rega氏らNIHP2019 investigatorsが、欧州8ヵ国(ベルギー、フランス、ドイツ、イタリア、英国、スペイン、オーストリア、スウェーデン)の移植センター15施設で実施した国際共同無作為化非盲検比較試験「NIHP2019試験」の結果を報告した。SCSは、ドナー心臓保存のゴールドスタンダードであるが、虚血、嫌気的代謝、臓器損傷を伴い、患者の合併症と死亡につながっていた。著者は、「HOPEによるドナー心臓の保存は、移植片保存に関連する既存の課題と、ドナーおよび心移植レシピエントにおける複雑性の増大に対処するもので、今後の研究によりHOPEの有益性がさらに明らかになるであろう」とまとめている。Lancet誌2024年8月17日号掲載の報告。

ドナー心臓の保存法、HOPE vs.SCSに無作為化

 研究グループは、欧州8ヵ国の移植センター15施設において、心臓移植の候補となる18歳以上の成人を登録し、移植の直前に治療群と対照群に1対1の割合で無作為に割り付けた。

 治療群(HOPE群)では、保存プロトコールとして、安静時のドナー心臓のHOPEを確保するポータブル機械灌流システムを使用した。対照群(SCS群)のドナー心臓は、標準的な方法により虚血下SCSを行った。

 ドナーは、年齢18~70歳で、過去に胸骨切開手術を受けたことがなく、脳死後にドナーとなったことを適格基準として、試験とは無関係に、地域のシステムに従いレシピエントとマッチングされた。

 1次エンドポイントは、移植後30日以内の心臓関連死、左心室の中等度または重度の原発性移植片機能不全(primary graft dysfunction:PGD)、右心室のPGD、grade 2R以上の急性細胞性拒絶反応、または生着不全(機械的循環補助の使用または再移植を伴う)のいずれかが最初に発生するまでの時間で、主要解析対象集団(mITT集団)は、無作為化され適格基準と除外基準を満たし、移植を受けた全患者とした。また、無作為化され移植を受けた全患者を対象に安全性について評価した。

SCSと比較しイベントリスクは44%減少

 2020年11月25日~2023年5月19日に、計229例の患者が登録され(HOPE群119例、SCS群110例)、このうち204例(それぞれ101例、103例)がmITT集団に組み入れられた。また、HOPE群に割り付けられた患者で、装置等の問題によりSCSを用いて移植を受けた患者があり、安全性解析対象集団はHOPE群97例、SCS群125例であった。装置に関連した問題により廃棄されたドナー心臓はなかった。また、移植を受けたが追跡不能となった患者はいなかった。

 1次エンドポイントのイベントは、HOPE群で101例中19例(19%)、SCS群で103例中31例(30%)に認められ、HOPEによりイベントリスクが44%減少した(ハザード比:0.56、95%信頼区間[CI]:0.32~0.99、log-rank検定のp=0.059)。1次エンドポイントのイベントのうち、PGDの発生はHOPE群11例(11%)、SCS群29例(28%)であった(リスク比:0.39、95%CI:0.20~0.73)。

 重篤な有害事象は、HOPE群では63例(65%)に158件、SCS群では87例(70%)に222件報告された。2次エンドポイントである主要有害心臓移植イベント(MACTE)は、HOPE群で18例(18%)、SCS群で33例(32%)に認められた(リスク比:0.56、95%CI 0.34~0.92)。

(医学ライター 吉尾 幸恵)