非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)の高齢患者では、保存的治療と比較して侵襲的治療は、心血管死または非致死的心筋梗塞の複合のリスクを改善しないことが、英国・ニューカッスル大学のVijay Kunadian氏らBritish Heart Foundation SENIOR-RITA Trial Team and Investigatorsが実施した「SENIOR-RITA試験」で示された。研究の詳細は、NEJM誌オンライン版2024年9月1日号で報告された。
約3分の1がフレイルのNSTEMI患者集団で侵襲的治療の有用性を評価
SENIOR-RITA試験は、高齢NSTEMI患者における侵襲的治療の有用性の評価を目的とする非盲検無作為化対照比較試験であり、2016年11月~2023年3月にイングランドとスコットランドの48施設で参加者のスクリーニングを行った(英国心臓財団[BHF]の助成を受けた)。
年齢75歳以上のNSTEMI患者1,518例(平均年齢82歳、女性44.7%、フレイル32.4%、認知機能障害62.5%)を登録し、侵襲的治療戦略を受ける群に753例、保存的治療戦略を受ける群に765例を割り付けた。侵襲的治療群は、冠動脈造影と血行再建術を施行し、有効性が最も高いと考えられる薬物療法を行った。保存的治療群は薬物療法のみを行った。
主要アウトカムは、心血管系の原因による死亡と非致死的心筋梗塞の複合とし、time-to-event解析で評価した。
心筋梗塞は少ないが主要アウトカムに差はない
追跡期間中央値4.1年の時点で、主要アウトカムのイベントは、侵襲的治療群で193例(25.6%)に、保存的治療群では201例(26.3%)に発生し、両群間に有意な差を認めなかった(ハザード比[HR]:0.94、95%信頼区間[CI]:0.77~1.14、p=0.53)。
心血管系の原因による死亡は、侵襲的治療群で119例(15.8%)、保存的治療群では109例(14.2%)に発生し(HR:1.11、95%CI:0.86~1.44)、非致死的心筋梗塞はそれぞれ88例(11.7%)および115例(15.0%)に発生した(0.75、0.57~0.99)。
手技に関連した合併症は1%未満
副次アウトカムである全死因死亡と非致死的心筋梗塞の複合は、侵襲的治療群で319例(42.4%)、保存的治療群で321例(42.0%)に発生し(HR:0.97、95%CI:0.83~1.13)、致死的または非致死的心筋梗塞はそれぞれ100例(13.3%)および124例(16.2%)に発生した(0.79、0.61~1.02)。
また、一過性脳虚血発作は、侵襲的治療群で18例(2.4%)、保存的治療群で9例(1.2%)に発生し(HR:2.05、95%CI:0.92~4.56)、出血イベント(BARCタイプ2以上)はそれぞれ62例(8.2%)および49例(6.4%)に発生した(1.28、0.88~1.86)。侵襲的治療群では、手技に関連した合併症の発生率は1%未満だった。
著者は、「臨床医は、出血や手技関連合併症への懸念からフレイルの高齢者に侵襲的な処置を行うことに消極的だが、本研究では最新の血管造影とインターベンション戦略を用いたためこれらの合併症の発生は最小限であった」とし、研究の限界として「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は、とくに併存疾患の負担が大きいフレイルの高齢患者の募集に影響を及ぼし、予定されていた症例数に達しなかった」と述べている。
(医学ライター 菅野 守)