低~中リスクの限局性前立腺がん患者の放射線治療において、従来の分割照射法または中程度の寡分割照射法と比較して、5分割の体幹部定位放射線治療(SBRT)は、生化学的再発または臨床的再発に関して非劣性であり、有効な治療選択肢となる可能性があることが、英国・Royal Marsden HospitalのNicholas van As氏らが実施した「PACE-B試験」で示された。研究の成果は、NEJM誌2024年10月17日号に掲載された。
3ヵ国の第III相無作為化非劣性試験
PACE-B試験は、限局性前立腺がん患者において、生化学的再発または臨床的再発に関して、従来の分割照射法または中程度の寡分割照射法に対するSBRTの非劣性の検証を目的とする第III相非盲検無作為化対照比較非劣性試験であり、2012年8月~2018年1月に3ヵ国(英国、アイルランド、カナダ)の38施設で患者を登録した(Accurayの助成を受けた)。
年齢18歳以上、臨床的または磁気共鳴画像(MRI)の定義でT1、T2の病変を有し、全米総合がん情報ネットワーク(NCCN)基準で低リスク(Gleasonスコア3+3かつ前立腺特異抗原[PSA]値≦10ng/mL)または中リスク(Gleasonスコア3+4、PSA値10.1~20.0ng/mL、またはこれら両方を満たす)の前立腺がんと判定された男性を対象とした。
被験者を、SBRTを受ける群または対照の放射線治療を受ける群に1対1の割合で無作為に割り付けた。SBRT群は、総線量36.25Gyを1週間または2週間にわたり5分割で照射し、対照群は、総線量78Gyを7.5週間にわたり39分割、または62Gyを4週間にわたり20分割で照射した。アンドロゲン除去療法(ADT)は許容されなかった。
主要エンドポイントは、生化学的再発(PSA値の上昇、ADTの開始、精巣摘除術)または臨床的再発(局所再発、リンパ節転移再発、遠隔転移、前立腺がんによる死亡)がないこととし、ハザード比(HR)の非劣性マージンを1.45に設定してITT解析を行った。
前立腺がん死は2例ずつ
874例を登録し、SBRT群に433例、対照群に441例を割り付けた。ベースラインの全体の年齢中央値は69.8歳(四分位範囲:65.4~74.0)、PSA値中央値は8.0ng/mL(5.9~11.0)であり、NCCNリスク分類は8.4%が低、91.6%が中であった。
追跡期間中央値74.0ヵ月の時点における無生化学的再発または無臨床的再発の5年発生率は、SBRT群が95.8%(95%信頼区間[CI]:93.3~97.4)、対照群は94.6%(91.9~96.4)であり、生化学的再発または臨床的再発の補正前HRは0.73(90%CI:0.48~1.12)と、対照群に対するSBRT群の非劣性が示された(非劣性のp=0.004)。
29例(SBRT群10例、対照群19例)がホルモン療法を開始し、HRは0.55(95%CI:0.26~1.20)であった。また、79例(46例、33例)が死亡し、このうち前立腺がんによる死亡は4例(2例、2例)で、死亡のHRは1.41(95%CI:0.90~2.20)だった。
泌尿生殖器毒性が多かった
5年時における晩期の米国腫瘍放射線治療グループ(RTOG)Grade2以上の泌尿生殖器毒性の累積発生率は、対照群の18.3%(95%CI:14.8~22.5)に比べSBRT群は26.9%(22.8~31.5)と高率であった(p<0.001)。また、5年時の晩期RTOG Grade2以上の消化器毒性の累積発生率は、SBRT群が10.7%(8.1~14.2)、対照群は10.2%(7.7~13.5)であり、両群間に差を認めなかった(p=0.94)。
有害事象共通用語規準(CTCAE)のGrade2以上の勃起不全は、SBRT群で26.4%、対照群で29.1%に発現した(p=0.46)。
著者は、「5分割SBRTは、前立腺がんに対する中程度寡分割放射線治療の強固で実行可能な代替療法であり、患者の利便性を高めつつ同等の有効性を提供できることが示された」「分割数の減少により、医療システムの負担が軽減される一方で、ホルモン治療を追加することなく良好ながんコントロールが得られると期待される」としている。
(医学ライター 菅野 守)