くすぶり型多発性骨髄腫は、活動性多発性骨髄腫の無症候性の前駆疾患であり、現在の標準治療は経過観察であるが、活動性多発性骨髄腫への進行リスクが高い患者では早期治療が有益な可能性があるとされる。ギリシャ・アテネ大学のMeletios A. DimopoulosらAQUILA Investigatorsは「AQUILA試験」において、高リスクくすぶり型多発性骨髄腫の治療では注意深い経過観察と比較して抗CD38モノクローナル抗体ダラツムマブ皮下注単剤療法が、活動性多発性骨髄腫への進行または死亡のリスクを有意に改善し、全生存率も良好で、予期せぬ安全性に関する懸念も認めないことを示した。研究の成果は、NEJM誌オンライン版2024年12月9日号で報告された。
23ヵ国の無作為化第III相試験
AQUILA試験は、高リスクくすぶり型多発性骨髄腫の治療におけるダラツムマブの有用性の評価を目的とする非盲検無作為化第III相試験であり、2017年12月~2019年5月に日本を含む23ヵ国124施設で患者を登録した(Janssen Research and Developmentの助成を受けた)。
年齢18歳以上、過去5年以内に国際骨髄腫作業部会(IMWG)の基準でくすぶり型多発性骨髄腫との確定診断を受け、活動性多発性骨髄腫への進行リスクが高く、全身状態の指標であるEastern Cooperative Oncology Group performance-status(ECOG PS、0~5点、点数が高いほど機能障害が重度)のスコアが0または1点の患者を対象とした。
これらの患者を、ダラツムマブの皮下投与を36ヵ月間で39サイクル受けるか、あるいは病勢の進行が確定するまで投与を継続する群、または注意深い経過観察を受ける群に、1対1の割合で無作為に割り付けた。注意深い経過観察群では、疾患特異的治療を受けず、36ヵ月間あるいは病勢が進行するまで観察を継続した。
主要評価項目は無増悪生存(活動性多発性骨髄腫への進行または全死因死亡)とし、IMWG基準に従って独立審査委員会が評価した。
完全奏効以上、最良部分奏効以上の割合も良好
390例を登録し、ダラツムマブ群に194例(年齢中央値63.0歳[範囲:31~86]、男性49.0%)、注意深い経過観察群に196例(64.5歳[36~83]、47.4%)を割り付けた。くすぶり型多発性骨髄腫の初回診断から無作為化までの期間中央値は0.72年(範囲:0~5.0)であった。ダラツムマブの投与期間中央値は35.0ヵ月(0~36.1)、サイクル数中央値は38だった。
追跡期間中央値65.2ヵ月の時点で、活動性多発性骨髄腫への進行または全死因死亡に至ったのは、経過観察群が99例(50.5%)であったのに対し、ダラツムマブ群は67例(34.5%)と有意に少なかった(ハザード比[HR]:0.49、95%信頼区間[CI]:0.36~0.67、p<0.001)。5年無増悪生存率は、ダラツムマブ群63.1%、経過観察群40.8%であった。
病勢進行までの期間中央値は、それぞれ44.1ヵ月および17.8ヵ月(HR:0.51、95%CI:0.40~0.66)であり、完全奏効以上(厳格な完全奏効+完全奏効)は、17例(8.8%)および0例(0%)、最良部分奏効以上(厳格な完全奏効+完全奏効+最良部分奏効)は、58例(29.9%)および2例(1.0%)だった。
41例が死亡し、内訳はダラツムマブ群15例(7.7%)、経過観察群26例(13.3%)であった(HR:0.52、95%CI:0.27~0.98)。5年全生存率は、それぞれ93.0%および86.9%だった。
重篤な有害事象は29.0%、投与中止は5.7%
Grade3または4の有害事象は、ダラツムマブ群40.4%、経過観察群30.1%で発現し、最も頻度が高かったのは高血圧で、それぞれ5.7%および4.6%であった。重篤な有害事象は、29.0%および19.4%で発現し、最も高頻度だったのは肺炎で、3.6%および0.5%だった。ダラツムマブ群では、11例(5.7%)で投与中止に至った有害事象を認めた。
Grade3または4の感染症は、ダラツムマブ群16.1%、経過観察群4.6%で発現した。ダラツムマブ群では、32例(16.6%)で投与に関連した全身反応が報告され(Grade3または4は2例[1.0%])、53例(27.5%)で注射部位の局所反応(Grade3または4はなし)を認めた。ダラツムマブ群の18例(9.3%)および経過観察群の20例(10.2%)で2次原発がんが発生した。ダラツムマブによる新たな安全性に関する懸念は確認されなかった。
著者は、「これらの知見は、ダラツムマブは臓器障害の進行を遅らせるか、あるいは完全に防止し、活動性多発性骨髄腫への進行を抑制する可能性を示唆し、深い寛解を達成しない場合でも臨床的な有益性をもたらす可能性があると考えられる」「ダラツムマブをベースとした併用療法などの治療戦略がより適切かは現時点では不明だが、先行試験と本試験の結果を統合すると、本疾患の治療にダラツムマブ単剤療法を一定期間使用することが支持される」としている。
(医学ライター 菅野 守)